ルーチェに恋をして

八月に入り、変わらないと思っていた寮内は意外にも夏休み仕様に。

蓮は実家に呼び出しを受けて仕方なく、すごーく嫌そうな顔をしながら帰省。
奏多も忙しさの合間を縫って実家に顔を出さないといけないらしく、夏休み中は実家に帰った。

寮内に残ったのは文乃と紡だけ。

紡も実家に帰るのかと思いきや「……俺は帰らない」と何かありそうな面持ちで寮に残ることを宣言していた。
彼はあまり自分の話をしたがらない。
だからこちらも聞いてはいけないような気がして話をそらす。
引きこもりだからこそ、人の心には割と敏感なのだ。
相手が嫌がっていることをわかっていてしたくはない。

両親も愛犬もいない実家に一人帰っても仕方ないので、文乃は寮の自室で一人執筆作業に勤しんでいた。

「あぁ……どうしよう……」
執筆作業を続けるも、定期的に行き詰まる。
紡の約束で取り込んだ設定がうまく頭の中で整理できないのだ。
着物という初めて触れる知識にどう扱うか悩む。

背中を反らせ唸っていると自室の扉が目に入った。

「……たまには談話室で……書いてみようかな」

自室以外で執筆したことはない。
けれど、今なら……蓮も奏多もいない。
紡は文乃を橘冬樹と知っているし、見られても問題はない。

文乃は思い切ってパソコンを持ち出し、談話室へと向かった。