ルーチェに恋をして



七月下旬。
無事、中間考査の再試験もクリアして夏休みに突入。
夏休みといっても普段から授業がないステラ生にとっては普段と何も変わらないが世間は違う。

天才ピアニストとして活動する奏多はとても忙しそうだった。

「あー……だりぃ……」
寮に入って右に位置する談話室。
座り心地の良さそうなソファーで項垂れる奏多は心の底からめんどくさそうに叫んでいた。

「どんだけ俺を働かせれば気が済むんだ……まだ未成年だぞ」
「仕方ないだろ。僕たちはその才能のおかげでこの生活を享受できているんだから」
「……チッ」

紡の正論が気に食わないも、言い返せるほどの論は持ち合わせていないのか舌を打つ奏多。
それでも彼が愚痴を吐きたくなるのもよくわかる。

文乃が授業を受けている期間も含め、奏多は動きっぱなしだった。
いろんなイベントに先の打ち合わせまで重なり、忙しさに拍車をかけているらしい。
練習、打ち合わせ、イベント。
自分とは全く違うタイプの才能に想像で寄り添うことしかできない。

奏多は閉じていた瞼をうっすらと開けると隣に座っていた文乃をチラリと見る。

「ん?」

視線に短く返事すると奏多はゆっくりと頭から体を文乃の膝の上に置いてきた。

「え?!」

「はっ?!」

想定外の行動に文乃と紡は驚きの声を上げる。
 
「か、奏多何してんだ!」
「あ?なんだよ。文乃を枕にしてるだけだろ」
「お前……そ、それは膝枕っていって……っ離れろ!」
「嫌に決まってんだろ。寝かせろ」

気晴らしに読書していたら奏多が膝の、う、上に。
友達ってこんな風に絡んだりするんだ……緊張する。
でも、私は枕だから変に動いたらせっかくの休憩なのに奏多が寝られない。

「ま、枕頑張ります……」
「文乃?!枕頑張るって何?!断りなよ!」
「でも……私が退いたら奏多が……」
「お前は自分の部屋で寝ろよ!」

入学当初、穏やかで知的な雰囲気を持っていた紡は三人の中では唯一のツッコミになってしまっていた。



夏休みは家に帰ろうと思って準備していた。
入学から一度も実家に帰っていない文乃は紡や奏多、蓮の話を両親にできたらと思っていたのだ。

 が、

[パパとママ、リキで旅行に出掛けています。執筆、頑張ってね。]

両親からのメッセージは娘を心配するどころか、応援メッセージ付きの留守の報告だった。