ルーチェに恋をして

「か、奏多く……奏多!」

大階段に向かい、そのまま一階に降りてしまう奏多。
後ろから必死に声をかけても拗ねているのかこっちを向いてくれることはない。

なんで拗ねているのか、怒っているのかわからない。
 
「かな……奏多……」

ただでさえ引きこもりの文乃が歩きながら話し、大階段を下ることは相当な体力を消耗する。
切れ始めた息を必死に堪え、奏多の制服の裾を掴んだ。

「待って、奏多……なんで怒ってるの……?」
 
奏多は裾を掴まれ動きを止めて黙る。

「……しらねぇよ。」
「え?」
「俺だってわかんねぇからイライラしてんだよ!」
 
振り返り、顔を赤く染めながら話す彼は本当に戸惑っているようだった。
じゃあ……返事しなかったのも、早歩きで行ってしまったのも。

「言葉を探して、黙ってただけ……?」
「…………そうだって言ってんだろ……」

そっか……怒ってたんじゃないんだ。
「よかったぁ……」
 
不安だった気持ちからポロポロと涙が溢れる。
 
「なっ?!」
 
泣かれる思っていなかったのか、奏多は焦ってハンカチを取り出し雑に文乃の目元を拭いた。

「ハンカチ……」
「いーんだよ、お前がすぐ泣くから持ってるだけなんだから」
 
私のために……?
自分のことを考えてくれていたことが嬉しくて涙と一緒に笑ってしまう。
 
「……泣くか笑うかどっちかにしろよ……忙しいやつだな」
仕方ない奴、と笑う奏多の表情はとても優しくて。


「えへへ……嬉しくて。やっと奏多に会えたから」


奏多の手がピタッと一瞬だけ止まった。
一週間とちょっと。
会えていなかっただけなのに、すごく久しぶりにあったような気分。

「おかえり、奏多」
「……ただいま。」
 
自分にとって、ステラで奏多たちと過ごす日々が当たり前になっている証拠だった。