ルーチェに恋をして

「……俺なんかでいいのかよ」 
「それを言い始めたら……私なんかで、いいんですか?」

奏多は顔を文乃に見せまいと俯き、隠す。
その仕草は高校生というより幼い少年に見えて、愛らしかった。

「相馬……奏多。ピアニスト」
「京極文乃です。……作家です」

(あいだ)に流れる不思議な空気に、二人はぎこちなく笑った。



「そういえば、どうやって私の部屋がわかったんですか?」
「あ?あぁ、アイツが……」
「僕が教えたんだよ」
 
扉の向こうから聞き慣れた声がした。
いつの間に来ていたのか、紡がひょこっと顔を覗かせる。
 
「紡くん?!お、おはよう……」
「文乃、おはよ——!?」
紡は驚くように口を抑え、顔を赤らめ、訴えた。
 
「ふみ、ふみの!お風呂上がりじゃないか!」
「……?」
 
確かに、風呂上がり。
でも頭は濡れているが服は着ているし、別に露出の激しいものでもない。
普通のモコモコショートパンツにモコモコのパーカー。

「?何か変……?」
「へ、変じゃないけど!そういう姿はそういう関係になってから見るものだろー!!」
 
 ?????
 
紡の言いたいことがさっぱりわからなかった。
奏多もわからないのか文乃と同じく首を傾げる。
二人に伝わらないのがわかると紡は額を抑え、深く息を吐いた。

「僕がおかしいのか……?はぁ……とにかく先に頭、乾かしておいでよ……部屋で待ってるから」
「……う、うん」
 
紡の一件以来、原稿やパソコンは作業を終えたら閉じて片付けるようにしているし、大丈夫なはず。
文乃は促され、洗面所に髪を乾かしに行った。