……終わった。
一番バレてはいけなさそうな彼に見られてしまうなんて。
文乃は手を合わせ合掌したまま、その場に固まった。
*
奏多は文乃の答えを待つように隣から動かない。
じっと彼女の目を見つめ、言葉を待っている。
「えっと……はぃ……」
逃げようがない。
頷くしかなかった。
「まじか!」
奏多の反応は文乃の予想とは大きく違い、好意的。
興奮気味に彼は話を続けた。
「え、どっち!脚本家?小説家?」
「しょ……小説家です……」
「うわ!なぁ!橘冬樹って知ってるか!」
聞き覚えも身に覚えもありすぎる名前に顔が全開で引き攣る。
「あ?なんだよその顔」
「い、いや、その……驚いて……」
「あぁ、すげぇ先生だよな」
あ、そっちの意味ではないんだけど……勘違いしてくれたならまぁ……いいのかな。
橘冬樹のことを話す奏多は目を輝かせていて、彼の感情は本物だとわかる。
昼間、暴言を吐いてきたとは思えぬ変わりように、文乃の胸の内は荒れていた。
……お、同じ人……?
本当に同じ人とは思えないほど、今の奏多は輝いている。
どっちが本当の彼なのかわからなくなりそうだった。
「橘冬樹はどの作品も面白くて、どこか現実味がないものもあるけどまたそれが物語って感じがしていいんだよ。こう、現実と創作のいい塩梅を攻めてくる感じで」
現実味がないどころか実際、想像だけで生きてますからね。
あなたの好きな作家は目の前の引きこもりですよ、とは口が裂けても言えない。
「その中でも俺は【アオとキイ】って作品が好きなんだよ。一番最初の作品で橘冬樹の作品の中では一番評価も低いけど、俺にとっては一番なんだ。」
——【アオとキイ】
その作品の名前を聞いて古傷を抉られるような気持ちに胸を抑える。
橘冬樹のデビュー作でベストセラーとなるものの、今までの作品で一番売れなかった。
「あそこまで行ってなんで恋愛にならんねん!」と読者から沢山のツッコミを受けて文乃のトラウマと化していた。
ま、まさかあれがこの人のお気に入りとは……。
文乃的には複雑すぎる。
一番バレてはいけなさそうな彼に見られてしまうなんて。
文乃は手を合わせ合掌したまま、その場に固まった。
*
奏多は文乃の答えを待つように隣から動かない。
じっと彼女の目を見つめ、言葉を待っている。
「えっと……はぃ……」
逃げようがない。
頷くしかなかった。
「まじか!」
奏多の反応は文乃の予想とは大きく違い、好意的。
興奮気味に彼は話を続けた。
「え、どっち!脚本家?小説家?」
「しょ……小説家です……」
「うわ!なぁ!橘冬樹って知ってるか!」
聞き覚えも身に覚えもありすぎる名前に顔が全開で引き攣る。
「あ?なんだよその顔」
「い、いや、その……驚いて……」
「あぁ、すげぇ先生だよな」
あ、そっちの意味ではないんだけど……勘違いしてくれたならまぁ……いいのかな。
橘冬樹のことを話す奏多は目を輝かせていて、彼の感情は本物だとわかる。
昼間、暴言を吐いてきたとは思えぬ変わりように、文乃の胸の内は荒れていた。
……お、同じ人……?
本当に同じ人とは思えないほど、今の奏多は輝いている。
どっちが本当の彼なのかわからなくなりそうだった。
「橘冬樹はどの作品も面白くて、どこか現実味がないものもあるけどまたそれが物語って感じがしていいんだよ。こう、現実と創作のいい塩梅を攻めてくる感じで」
現実味がないどころか実際、想像だけで生きてますからね。
あなたの好きな作家は目の前の引きこもりですよ、とは口が裂けても言えない。
「その中でも俺は【アオとキイ】って作品が好きなんだよ。一番最初の作品で橘冬樹の作品の中では一番評価も低いけど、俺にとっては一番なんだ。」
——【アオとキイ】
その作品の名前を聞いて古傷を抉られるような気持ちに胸を抑える。
橘冬樹のデビュー作でベストセラーとなるものの、今までの作品で一番売れなかった。
「あそこまで行ってなんで恋愛にならんねん!」と読者から沢山のツッコミを受けて文乃のトラウマと化していた。
ま、まさかあれがこの人のお気に入りとは……。
文乃的には複雑すぎる。



