ルーチェに恋をして



この空気……匂い、知ってる。
 
 
案内された部屋はそのまま自分の部屋を移したように馴染みのある空間だった。
本に溢れた部屋、デスクには愛用のパソコン。
積まれた修正中の原稿に小説の資料集。

部屋の大きさや間取りが違うので全く一緒ではないが、配置や雰囲気はそのままだった。
大きく変わったところと言えば、ベッドがサイズアップしたことと冷蔵庫や洗面所、浴室がついたこと。
 
「わ、私の部屋が私の部屋になってる……」
「ほほほ、ステラ御用達の引越し業者の腕は素晴らしいですから。作業中に何か見てしまったとしても秘密はしっかり守ります。」
「ステラ御用達の引越し業者……」

だとしてもレイアウトをそのまま持ってくるなんて、写真でも撮ったのか。
それはそれで怖いと思う文乃。

「食事やその他のお困りごとは私が承りますのでご安心ください。何かありましたらそちらのタブレットでご連絡いただければすぐに参ります。」
「ホ、ホテルみたい……」
「ほほ、確かにそうですね。これも初代校長の——」


 安西は急に崩れるように膝を床につく。

「っ!だ、大丈夫ですか?!」 
「申し訳ございません……私ももう歳ですな、最近腰の調子が悪くて急に崩れ落ちてしまうのです。ご心配をおかけして申し訳ございません。」
「そんな!無理せずとも……」
「ありがとうございます。こうしてステラの皆様を支えるのが私の趣味のようなものでもありまして。動ける限り、お仕えさせていただけると嬉しく思います。」

 安西の切実な言葉に胸を打たれる。
 なんて優しい人なんだろう。

「……はい。でも、無理はしないでくださいね。」
「ありがとうございます」

 姿勢を戻し、また執事らしく上品に立つ安西。
 先ほどまで腰を痛めて崩れ落ちていたとは思えぬ立ち姿に、さすが執事と思わずにはいられない。

「それでは、本日はごゆっくりとお過ごしください。また後でお食事をお持ちいたします。」
「あ……お願いします。」


 自室の扉がゆっくり閉まる。
 
 こうして、文乃のステラ寮での生活が始まった。