ルーチェに恋をして

——数ヶ月後。
 
書き上げた橘冬樹の新作は無事発売されて大好評。
橘冬樹としての執筆作品で、すでに過去一番の売り上げを叩き出している。
紡の実家である老舗呉服店も登場する新作の影響力は強く、紡から「ありがとう」と感謝の言葉も頂いた。
自室のデスクに置かれたパソコン画面には担当編集の村田が映り、感慨深そうに顎に手を添えている。
 
「今回の作品は今まで出してきた橘冬樹から一皮むけたような、成長を感じるわね」
「あはは……この成長がいつまで続くかわからないですけど……」

文乃の吐露に村田は当たり前じゃない、と笑った。

「いいのよ。人間なんて365日言ってることもやりたいことも変わるものなんだから。」

「だから何かをずっと続けられる人間はそれだけで凄いのよ。」

……村田さんはふとした時に良いことを言う。

文乃はどこかで使おうと言葉をメモに書き残した。
村田が飲んでいたコーヒーを置きながら画面に映る文乃へ尋ねる。

 
「次回作、どうするの?」

文乃は少し考えてから、メモに書き込む(ペン)を置いた。


 奏多の音楽は私の創作意欲を刺激して、不器用だけどまっすぐな眼差しは私の胸をドキドキさせる。
 
 紡は打算的に見えるけど全然そんなことなくて、優しく見守りいつも支えてくれて。

 蓮のもつ雰囲気と人間性はどこか自分と似ていて、一緒にいると安心した。

 太陽の眩しいほど輝く人柄は私の不安を取り除いて、彼の一途な想いは私を揺さぶる。

 
 ステラで出会った人たちは私の 光 (ルーチェ)


 
 ——私はこの芽生え始めた感情の物語を、

 ——書きたい。

 
「……恋愛ものを」
「うん?」
「恋愛ものを、書いてみようと思うんです」


 初めてそう言った瞬間、胸の奥がじわりと光を灯す。

 
 ――タイトルは『未定』。


 だけど、きっとこの物語はもう始まっている。



 ——ルーチェに恋をして—— 完