「そ、そっか!なら、わたしは会うたびにパンの試食でもしてもらおっかな」
首を振る私に、杏奈はそれ以上のことを聞こうとはせず、私が笑顔になれるような話題ばかりを話してくれた。
その日の帰り、買い物帰りの鼓さんとばったり会った。
「あら」
「こんにちは」
「こんにちは。……詩姫さんはもう少しで卒業ですね。つい最近、お母様の方から女将修行をすると聞きました」
「はい、迷ったんですけど……そうしました」
「そうですか。なら皆森旅館も安泰ですね」
「いえ……そんな」
そう言ってもらえるような覚悟は持ち合わせていないから、素直に受け取ることができない。
苦笑いを浮かべていると、分かりやすく鼓さんは何か思い出したように話し始めた。
「そうそう、こちらの話で申し訳ないのですが、実は椿冴、大規模な華道のコンテストを控えてましてね。と言ってまだ先ですか。椿冴は以前、そのコンテストで大賞を逃していまして」
「そうなんですか……」
「それで……椿冴はいつものレッスン部屋でひとり黙々と花を生けている時間が増えてきているのですが……ふふふっ」
真剣な話をされているのだと思いきや……突然笑い出した鼓さんに私は首を傾げた。
この笑い、何度か見てきた経験上……何かあるのだろうと思わざるを得ない。



