素のまま恋



もう引退してはいても一応、私に貸して風邪など引かれては申し訳ない。


「気持ちだけもらっておくよ、ありが──」


バサッ。

頭上から降ってきた何か。

……何これ、体育ジャージ?

なぜ上から?顔を見合わせてから杏奈と上を見上げた。


──き、貴公子!?


二階の窓からこちらを見下ろす貴公子に驚き、思わず立ち上がり、降ってきたジャージを掲げる。


すると貴公子は口を動かした。

『着とけ』と。

それと同時にチャイムが鳴り、私は頷きを返してコートを畳み、胸元に"鼓 椿冴"と刺繍されたジャージを着た。

集合場所に走りながら、もう一度窓の方へと目をやるも貴公子の姿はなくて。


──後からメッセージだけでも送っておかなきゃ。







その日の夜、


「あら詩姫っ」

「なに?」


何かした?と思いながらお母さんのもとへ行けば、洗濯機の前で広げられた体育ジャージ。


──あ。


鼓椿冴と書かれたジャージを見て、お母さんは見たことのないほど楽しそうな嬉しそうな、ニヤつきを見せた。











「はーあ、年明けたらわたしたち卒業だねー詩姫。なんだかんだ三年って早いなぁ」

「そうねぇ……」


街中のカフェでお茶をしていた私と杏奈。
窓側の席から、私たちはどんよりとした空をみていた。