『ちゃんと学んでらっしゃいよ』なんて笑顔で送り出されたものの、そこまでのやる気は生まれていない。
だけどこのやる気のなさを表に出すわけにはいかないから、教室に着いて出迎えてくれた鼓さんに挨拶をして、案内されるがままについていった。
ここよ、と言われ襖を開けた先に……
「いらっしゃったわよ、椿冴」
「は……い"っ!?」
──え……!?
「ん、どうしました椿冴」
「い、いえ、少し緊張してしまってるだけです」
貴公子は私の顔を見るなり、ぎょっとする。
私もしたけど、今はおしとやかを演じるしかなく咳ばらいをすれば、
それを鼓さんが不思議がると貴公子は平静を装って立ち上がり私へ一礼する。
「何事も経験ですからね。私がいなくとも、皆森旅館の大事なお嬢様。緊張するのは分かりますが、きちんとお教えするのですよ?」
「はい」
え?……鼓さんが指導してくれるんじゃないの?てっきり鼓さんかなって……貴公子は頭に入れてなかったのに。
「年も一つ違いですし、詩姫さんも話しやすいでしょう」
私も、きっと貴公子も、互いに話しやすいなんて、そんなこと思ってないと思う。
「それに、長いお付き合いになるのだから、親睦も深めておいて欲しいの。ふふふ」
意味深な言い方に聞こえるけど、あくまで旅館持ちと華道家としての関係のこと。と、私はとる。
「では、私は失礼しますからね」
静かに襖が閉められ、二人になれば当然沈黙が訪れる。それも立ったままで。



