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「……ねぇ杏奈」
「んー?」
「華道界の貴公子って知ってる?」
登校早々に、課題のやり忘れに四苦八苦している杏奈へ後ろから問いかければ、杏奈はペンを置き振り返った。
「華道界……ってあれでしょ?鼓椿冴くん。勿論知ってるよ。去年の入学時、結構女子に騒がれてたから。知らない人は少ないんじゃないかな?」
去年──と言うことは、貴公子は二年生か。
まさかの年下だったとは。上にも思えなかったけど。……と言うより、入学時に騒がれてたとか全然知らないのは私だけなんだろうか。
「なにーなにー?詩姫、貴公子のこと気になるの?」
恋愛絡みの話だと勘違いしているのか、杏奈は目を輝かせてきた。
「なわけないでしょ。ただ昨日、旅館の花を生けるって、挨拶に来ただけ」
「ああ……なーんだ納得。詩姫の旅館、鼓さんのお家と付き合い長いんだもんね」
「そうそう」
ひとりで期待してひとりで肩を落とし、再び課題に向き直る杏奈。その背中を見つめながら、私は息を吐いた。
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貴公子が来たあの日から一週間ほどが経ち、むかえた土曜の午後。
あーあー憂鬱。
貴公子が来た後、冗談というか会話の流れだと思っていたのに……。
本当に華道教室体験の約束を鼓さんとお母さんがかわしていたなんて微塵も思ってなかった。
そもそも私の華道の成績が壊滅的だからなんだろうけど。



