「俺だけ詩姫って呼んでるんだぜ?今のうちから貴公子呼び直さないと、後々面倒なんだよ……」
後々?
この先、公の場でも貴公子と呼ばれるのは恥ずかしいから……とか?
確かに地味に嫌かも。私の次期女将も嫌だし。
「……あのなぁ、一つ言うけど、多分今お前が思ってたこと違うからな?」
「エスパーか」
「お前に関してはそうかもな。……んで、面倒って意味は将来を見据えてる上で、ってことだ。分かるか?鈍感詩姫」
また鈍感って。
でもさすがにそこまで言われたら、理解できる。
「……わ、分かったってば。……椿、冴……くんちゃん」
「ちゃん?……ちょっとでも……ドキッとした俺が大バカだった。いらねぇのつけんな。これで詩姫から何かしてもらう権利俺一回ゲットな」
「え!?今のはノーカン!」
「無理。余計なのつけたから」
ふん、と貴公子に目を背けられ、私の意地っ張りスイッチが発動する。
「分かった!ちゃんと呼ぶからちょっと待って」
「……本当かよ」
どうせまた余計なのつけるんだろ、と貴公子は呟く。
いいさ、呼んでやる。名前を呼べばいいだけなんだから。難しいことはない。
「つ……つー……椿冴……よっし言えたどうだ──!?」
達成感とともに貴公子を見れば、
「……上出来だ」
満足げに、優しく微笑まれ、息を呑んでしまった。



