「千影、起きて。本当に間に合わないよ?」
ベッドの端に腰掛け、私は容赦なく掛け布団を剥ぎ取った。
返ってきたのは、低く不機嫌そうな唸り声だけ。
千影は枕に顔を埋めたまま、長い腕でベッドに転がっているクッションを抱き締め直している。
私たちは、高校を卒業し、大学を経てお互いに社会人になった。
私はインテリアメーカーの営業、千影はインフラ系のシステムエンジニア。
実家が隣同士だった私たちは、2年前から都内のマンションで一緒に暮らしている。
……けれど。
千影の朝が弱いという癖だけは、学生時代から何ひとつ進化していなかった。
「……あと、十分」
「さっきもそう言った。千影、今日朝イチで大事なミーティングあるって言ってたでしょ?私だってこれから直行で顧客のところ行かなきゃいけないんだから」
時計の針はすでに七時半を回っている。
優しく揺すってもダメ、声を荒らげてもダメ。
こうなったら、最終手段に出るしかない。

