アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第70話】氷室視点
目の前で、大粒の涙を流しながらエセ関西弁で本音をぶちまける律さんを見て、俺の胸は、愛おしさと切なさで張り裂けそうだった。
(面影が似てるから? 幸せになってほしいから身を引いた?)
(……どんだけ健気で、どんだけ馬鹿なんだよ、俺の愛しいアンドロイドは)
「……あのさ、律さん」
俺は一歩踏み出し、今度は拒絶されないように、優しく、だけど絶対に逃がさない強さで、泣きじゃくる彼女の身体を両腕でぎゅっと抱きしめた。
「ひゃ、ひゃんで抱きつくんですか、離して――」
「離さない。世界が滅びても離さない」
耳元でそう囁くと、律さんの身体がビクッと強張った。
「言っとくけど、俺が白鳥さんを好きだったのは、単に『面影が似てる綺麗な人』が好きだったからじゃない。当時の俺が空っぽだったから、冷たくて格好いい人に憧れてただけ。……でもね、律さんは違うんだよ」
律さんの背中に回した手に、ぎゅっと力を込める。
「俺のチャラチャラした薄っぺらい仮面を、全力のツッコミでぶち壊して、俺の本当の心を引っ張り出してくれたのは、世界中で神田律、あんただけなんだよ。俺が溺れたのは、白鳥さんの面影じゃない。バグまみれで、エセ関西弁で、誰よりも一途で可愛い、あんたっていう沼なんだよ」
「せ、先輩……」
「白鳥さんが本物のヒロイン? 違うね。俺の物語のヒロインは、出会ったあの日から、これからもずっと、この腕の中にいるポンコツアンドロイドだけ。……わかった?」
腕の中の律さんが、小さく「ううっ……」と声を漏らし、俺のスーツの胸元に顔を埋めて、子供のように声を上げて泣き始めた。
その小さな手が、俺の背中の生地を、今度は千切れんばかりにぎゅっと掴み返してくれた。
交差点の騒音の中で、俺たちのシステムは、かつてないほどの最高出力でリブート(再起動)を果たしたのだった。