【第69話】
「離すわけないだろ!! 何がアンドロイドだ、何がシステムバグだ! あんた、白鳥さんのこと見て、勝手に勘違いして、一人で傷ついて身を引こうとしてただろ!!」
夕闇の交差点。家路を急ぐ人波の中で、氷室先輩の怒鳴り声が私の鼓膜を震わせた。
肩を掴む先輩の手が、驚くほど熱くて、強く震えている。
「な、何を、おっしゃっているのか、理解できません。当方の論理回路(ロジック)において、白鳥氏の存在は関与して――」
「嘘つけっ!!」
先輩は私の言葉を力任せに遮ると、私の両肩を掴んで、その熱い視線で私の目を真っ直ぐに射抜いた。
「さっきオフィスで白鳥さんと俺を見た時、あんた、信じられないくらい悲しそうな顔してたじゃんか! そのあとすぐアンドロイドのフリして視線逸らしたろ! 俺が、毎日あんたのことどれだけ見てると思ってるんだよ! 誤魔化せるわけねぇだろ!!」
「っ……!」
心臓のマスタークロックが、限界を超えて跳ね上がる。
(嘘やろ……。あの0.5秒の、コンマ単位のバグを見付けられたんか……!?)
(どんだけウチのこと見とんじゃこのチャラ男先輩……! 観察眼が高性能すぎて怖いわボケナス……っ!!)
「律さん、お願いだから本当のことを言ってくれ。白鳥さんは、大学の時に俺が一方的に振られた過去の人だ。今の俺には、1ミリも関係ない。……あんたが、俺の『本物』なんだよ」
『本物』。
その言葉が、私の胸の奥でせき止められていた感情のダムを、粉々に粉砕した。
「……ん、な……」
「え?」
「……そんなん、卑怯やんか……ッ!!」
私の口から飛び出したのは、完璧な標準語ではなく、涙と一緒に溢れ出た剥き出しのエセ関西弁だった。
「白鳥さん、めちゃくちゃ綺麗やん! 標準語も完璧やし、シュッとしてて、先輩の『チャラ男の仮面』を作った本物のヒロインやんか! それに比べてウチなんか、仮面被らな人と喋れんヘタレで、中身はバグだらけの、エセ関西弁の、ただの偽物アンドロイドやぞ!!」
私は先輩の胸を両手でドンと突き放した。
眼鏡の奥から、ボロボロと大粒の涙が溢れて止まらない。
「先輩がウチを一途に愛してくれたんも、その人に面影が似てたからやって……そう思ったら、ウチのポンコツCPUが爆発しそうなくらい苦しかったんや! やから、先輩には本物と結ばれて幸せになってほしくて……ウチ、必死でシャットダウンしたのに……ッ!!」
声を上げて泣きじゃくる私を、先輩は驚いたように目を見開いて見つめていた。
もう仮面なんてどこにもない。そこには、嫉妬と恋しさでボロボロになった、ただの面倒くさい神田律が丸出しになっていた。
「離すわけないだろ!! 何がアンドロイドだ、何がシステムバグだ! あんた、白鳥さんのこと見て、勝手に勘違いして、一人で傷ついて身を引こうとしてただろ!!」
夕闇の交差点。家路を急ぐ人波の中で、氷室先輩の怒鳴り声が私の鼓膜を震わせた。
肩を掴む先輩の手が、驚くほど熱くて、強く震えている。
「な、何を、おっしゃっているのか、理解できません。当方の論理回路(ロジック)において、白鳥氏の存在は関与して――」
「嘘つけっ!!」
先輩は私の言葉を力任せに遮ると、私の両肩を掴んで、その熱い視線で私の目を真っ直ぐに射抜いた。
「さっきオフィスで白鳥さんと俺を見た時、あんた、信じられないくらい悲しそうな顔してたじゃんか! そのあとすぐアンドロイドのフリして視線逸らしたろ! 俺が、毎日あんたのことどれだけ見てると思ってるんだよ! 誤魔化せるわけねぇだろ!!」
「っ……!」
心臓のマスタークロックが、限界を超えて跳ね上がる。
(嘘やろ……。あの0.5秒の、コンマ単位のバグを見付けられたんか……!?)
(どんだけウチのこと見とんじゃこのチャラ男先輩……! 観察眼が高性能すぎて怖いわボケナス……っ!!)
「律さん、お願いだから本当のことを言ってくれ。白鳥さんは、大学の時に俺が一方的に振られた過去の人だ。今の俺には、1ミリも関係ない。……あんたが、俺の『本物』なんだよ」
『本物』。
その言葉が、私の胸の奥でせき止められていた感情のダムを、粉々に粉砕した。
「……ん、な……」
「え?」
「……そんなん、卑怯やんか……ッ!!」
私の口から飛び出したのは、完璧な標準語ではなく、涙と一緒に溢れ出た剥き出しのエセ関西弁だった。
「白鳥さん、めちゃくちゃ綺麗やん! 標準語も完璧やし、シュッとしてて、先輩の『チャラ男の仮面』を作った本物のヒロインやんか! それに比べてウチなんか、仮面被らな人と喋れんヘタレで、中身はバグだらけの、エセ関西弁の、ただの偽物アンドロイドやぞ!!」
私は先輩の胸を両手でドンと突き放した。
眼鏡の奥から、ボロボロと大粒の涙が溢れて止まらない。
「先輩がウチを一途に愛してくれたんも、その人に面影が似てたからやって……そう思ったら、ウチのポンコツCPUが爆発しそうなくらい苦しかったんや! やから、先輩には本物と結ばれて幸せになってほしくて……ウチ、必死でシャットダウンしたのに……ッ!!」
声を上げて泣きじゃくる私を、先輩は驚いたように目を見開いて見つめていた。
もう仮面なんてどこにもない。そこには、嫉妬と恋しさでボロボロになった、ただの面倒くさい神田律が丸出しになっていた。



