アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第64話】
それからの数日間、私は氷室先輩からのメッセージへの応答速度(レスポンス)を故意に遅延させ、極力接触を回避するプログラムを実行した。
「律さん、最近どうかした? 体調悪い? 今日、仕事終わりに少し話せないかな」
廊下で呼び止められた時も、私は眼鏡のブリッジを冷徹に押し上げ、一度も先輩の目を見ようとはしなかった。
「いえ。総務部の繁忙期に伴うタスク過多により、プライベートの処理能力(リソース)が枯渇しているだけです。お声掛けは不要です」
「律さん……」
傷ついたように眉を寄せる先輩の顔が、胸を切り裂くように痛む。
(そんな顔せんといてや、先輩……)
(ウチは偽物なんや。本物のヒロインがすぐ近くに戻ってきたんやから、バグだらけで可愛げのないアンドロイドは、速やかに舞台裏へ退場せなあかんのや……。先輩には、本物と結ばれて、本当の幸せを掴んでほしいねん……)
その日の夜、私は誰もいないオフィスのデスクで、スマートフォンの画面を開いた。
チャット画面の入力欄に、何度も文字を打っては消し、打っては消しを繰り返す。
本当の理由――「白鳥さんに嫉妬したから」「面影を重ねられているのが不安だから」なんて言葉は、総務部監査官としてのプライドが、そして何より先輩への歪んだ優しさが、絶対に許可しなかった。
『氷室先輩。お付き合いの継続に関する監査を行った結果、当方との相性において致命的なシステムバグが多数検出されました。よって、本日をもってアクセス権を完全剥奪(別れを宣告)いたします。以降、業務外の通信は一切遮断します。これまでありがとうございました』
送信ボタンを押した瞬間、私の画面は涙で完全に歪んで見えなくなった。
心の中の漫才師は、もうツッコミを入れる気力もなく、暗闇の中でただ声を上げて泣きじゃくっていた。