アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第63話】
「営業1課に新しく入った派遣の白鳥さん、めちゃくちゃ美人だよね。なんか、氷室先輩と大学のサークルが一緒だったらしくて、さっき楽しそうに昔話してたよ」
給湯室で他の部署の女子社員が話している声が、パーテーション越しに私の聴覚センサーへと飛び込んできた。
白鳥凛。
営業部のフロアで見かけた彼女は、モデルのように洗練された容姿で、非の打ち所がないほど綺麗な標準語を話す、まさに「完璧な女性」だった。そして何より――。
(……似とる)
(あの冷たそうで見識の広そうな目元も、シュッとした立ち姿も……私のこの、面白みのないアンドロイドの仮面(見た目)に、致命的なほどプロファイルが一致しとるやないかい……!)
脳内のプロ漫才師が、手にしたハリセンを床に落とし、ガタガタと震え出した。
先輩が私に言った言葉が、濁流のように脳内を駆け巡る。
『大学時代、誰の心にも本気で踏み込んでないってことだったんだ』
『律さんに出会って、初めて自分の本当の姿を見てもらえた気がした』
(違う……違うわ……。先輩が言うてた「本当の姿」を引き出したんは、ウチやない……!)
(先輩が本気で一途に追いかけて、傷ついて、その結果できた「チャラ男の仮面」の、すべての元凶はその白鳥さんって人なんや……!)
私は自分の胸のあたりをぎゅっと凝視した。
先輩が私に向けてくれたあの熱い一途さは、私自身に向けられたものではなく、ただ、過去に失った「本物のヒロイン」の面影を、よく似た私(アンドロイドの偽物)に重ねていただけなのではないか。
その仮説が脳内に弾き出された瞬間、私のシステムは、かつてないほどの致命的なフリーズを起こした。