アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第62話】氷室視点
律さんとの秘密のオフィス・ラブが始まって2週間。
会社での彼女は相変わらずの鉄面皮だけど、誰もいない給湯室で2人きりになった瞬間、裾をきゅっと掴んで「……お疲れ様です、先輩」と小さく微笑んでくれるようになった。そのギャップに、俺は毎日溺れそうになっていた。
「氷室ー、ちょっといい? 営業1課に応援の派遣さんが入るから、資料の案内お願いできる?」
午後、課長に呼ばれてオフィスの入り口へ向かった。
「今日から入る、白鳥さんね」
課長の後ろから一歩前に出た女性を見て、俺の思考は一瞬でフリーズした。
ウェーブのかかった綺麗な黒髪。
すっと通った鼻筋に、どこか理知的で、だけど少し冷たさを孕んだ瞳。
「初めまして。今日からお世話になります、白鳥凛(しらとり りん)です」
完璧な標準語の、通る声。
その姿は、俺が大学時代、文字通り「死ぬほど一途に追いかけて、そして無惨に振られた」昔の恋人の面影そのもの――いや、本人だった。
「あ……うん。氷室です。よろしく」
俺は必死にビジネスの笑顔を取り繕った。過去への未練なんて1ミリもない。今の俺には律さんしかいない。だけど、そのあまりの偶然に、背中に冷たい汗が流れるのを止められなかった。
そして最悪なことに、その挨拶の光景を、総務部の用事で営業部へ書類を届けに来ていた律さんが、パーテーションの陰から真っ直ぐに見つめていたのだった。