アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第59話】
新宿御苑の閉園時間を告げるアナウンスが響くなか、私たちはゆっくりと出口へ向かって歩いていた。
私の右手は、今も先輩の大きな手のひらの中に格納されている。
先ほどアクセス権を完全承認(告白を承諾)してからというもの、先輩は一度も私の手を離そうとしない。
「律さん、手、冷たくない? 寒かったら俺のジャケットのポケット入れる?」
「い、いえ。現在の体表面温度は平熱より高めを推移しておりますので、外部からの加熱処理は不要です」
私は赤くなった顔を隠すように、返却されたばかりの眼鏡のブリッジを左手でクイッと押し上げた。
『律さん』。
先輩に名前で呼ばれるたびに、胸の奥の電子回路がショートしたような火花を散らす。
(あかん……! 完全にシステムが書き換えられてもうた……!)
(今までは『チャラ男先輩をいかに冷徹に処理するか』っていう防衛プログラムやったのに、今は『先輩の一挙手一投足にどう対応すればいいか分からんくて爆発する』っていう超高負荷なバグまみれのプログラムがフル稼働しとるがな!)
「あはは、また脳内で大忙しだね、律さん。……付き合えて、本当に嬉しいよ」
先輩は立ち止まると、私の手をきゅっと握り直して、夕暮れの光の中で眩しそうに目を細めた。その一途な眼差しに、私はただ「……私も、です」と、蚊の鳴くような標準語で答えるのが精一杯だった。