アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない


【第6話】
「……んなわけ、あるかいな」
「え?」
「『修正して提出』やろがボケェーーー!!!」
静まり返ったオフィスに、私の怒号が響き渡った。
残っていた数人の社員がビクッと肩を揺らし、一斉にこちらを見る。だが、もう止まらない。
「なんでバラバラにしてもうたんや! 部長にジグソーパズルさせる気か! 難易度高すぎるわ! 業務時間中にそんな暇あるかい! お前の脳みそハッピーセットかワレェ!!」
完璧な標準語と鉄のポーカーフェイスを誇っていた「アンドロイド神田」は、そこにはいなかった。
肩を怒らせ、ゼェゼェと息を荒くし、コテコテのエセ関西弁でまくしたてる女が一人。
やってしまった。
終わった。私の会社人生、ここで完全終了だ。明日から「ハッピーセット神田」というあだ名で呼ばれ、総務部の隅っこで窓際族になるんだ。
恐怖と後悔で血の気が引き、ロボットのような動きで両手で口を覆う。
恐る恐る氷室の顔を見ると、彼は目を見開いたまま、石のように硬直していた。
数秒の、死のような沈黙。
「ッ……、あ、ははははは!!!!」
突如、氷室がデスクを叩いて爆笑し始めた。
大の大人がお腹を抱え、涙を流しながら、オフィス中に響き渡る声で笑っている。
「あははは! 面白すぎる! 神田さん、それ最高なんだけど!」
「ひ、氷室、先輩……?」
「脳みそハッピーセットって何!? 確かに『修正』だったわ! 俺、何やってんだろ! あははは!」
氷室は涙を拭いながら、私の手元にすり寄ってきた。その目は、からかいや軽蔑ではなく、まるで宝物を見つけた子供のようにキラキラと輝いている。
「神田さんって、そんな風に怒るんだね。しかも関西弁? めちゃくちゃ新鮮なんだけど」
「ち、違います……。これは、その、一時的なバグでして……」
「バグじゃないよ。俺、さっき本気で落ち込んでたのに、神田さんに怒られてめちゃくちゃ元気出た。ねえ、もう一回言って?」
「嫌です」と私は冷たく突き放したが、耳たぶが熱くなっているのが自分でもわかった。
氷室蓮は、一途な男だ。
彼は、自分が「この人だ」と決めた相手には、どんなに冷たくされても、どれほど壁を作られても、決して諦めない泥臭さを持っている。
そしてこの日、彼の『鍵付きの箱』を開ける鍵が、私のエセ関西弁のツッコミだったことに、私はまだ気づいていなかった