アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第58話】氷室視点
「メリットなんて、最初から考えてないよ。俺はただ、律さんが好きなんだ」
俯いて、ぽろぽろと涙を流す彼女の姿を見て、俺の胸は締め付けられるように痛むと同時に、愛おしさで満たされていった。
初めて呼んだ、彼女の名前。
神田さんは一瞬だけビクッと身体を強張らせたけれど、もう俺の手を振り払おうとはしなかった。眼鏡の隙間からこぼれ落ちる涙が、彼女の白い頬を濡らしていく。
「バグだらけだっていいよ。エセ関西弁で怒鳴り散らすあんたが、俺にとっては世界で一番愛しいんだから。……だから、もうアンドロイドのフリをして、一人で抱え込まなくていいよ」
俺はそっと手を伸ばし、彼女の眼鏡を外した。
露わになった彼女の瞳は、濡れた夜露のようにきらきらと輝いていて、驚くほど純粋で、綺麗だった。
「律さん。俺を、あんたの隣にいる正式な『パートナー』として、承認してくれないかな」
新宿御苑の柔らかな風が、二人の間を吹き抜ける。
律さんは、涙を溜めた瞳で真っ直ぐに俺を見つめ、それから、しゃくりあげるのを堪えるようにして、小さく、だけど確かに頷いた。
「……はい。……ユーザー名『氷室先輩』のアクセス権を、完全……承認(パス)いたします……」
その瞬間、彼女の鉄壁の城門は完全に消え去った。
俺は愛おしさが限界を超え、泣きじゃくる彼女の華奢な身体を、木陰のベンチでそっと力強く抱きしめた。