アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第57話】
「先輩、それは……卑怯、です」
私の口から漏れたのは、プロ漫才師の怒号でも、アンドロイドの警告音でもない、ただの『神田律』という一人の女の子の、掠れた本音だった。
緑茶のボトルを握りしめる指先が、自分の意志に反して小刻みに震える。
先輩の真っ直ぐな言葉が、私の胸の奥に構築されていた頑丈な防衛システム(ファイアウォール)を、外側からではなく、内側のコアから優しく溶かしていく。
(あかん……もう、ツッコミの言葉が出てこおへん)
(『チャラ男先輩』なんて、もう呼べへんやないかい。こんなに私のことを、私の汚い部分も不器用な部分も含めて、全部真っ直ぐに見つめてくれる人を、どうやって突き放せばいいんや……)
眼鏡のレンズの奥で、視界がじんわりと滲んでいく。
私は慌てて顔を伏せたが、ポロポロと溢れそうになる涙を止めることができなかった。過去のトラウマから自分を守るために着込んでいた「アンドロイドの鎧」が、今、完全に音を立てて崩壊していく。
「……私は、可愛くありません。融通も利かないし、怒るとエセ関西弁で怒鳴り散らすような、バグだらけの人間です。先輩が、そんな私を選ぶメリットなんて、1ミリも……」
「メリットなんて、最初から考えてないよ」
気づけば、先輩の大きな手が、私の両手をボトルごと優しく包み込んでいた。