アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第52話】氷室視点
映画は、神田さんが「仕様書」でリクエストしてきた、硬派なサスペンスアクション。
スクリーンの中では激しい銃撃戦が繰り広げられているが、俺の意識は、隣に座る彼女の小さな横顔に100%持っていかれていた。
暗闇に浮かび上がる、彼女の綺麗な鼻筋と、少し緊張したように結ばれた唇。
時折、画面が爆発などで明るくなるたびに、彼女の長い睫毛がパタパタと揺れるのが見える。会社での鉄面皮が、この暗闇のなかでは少しだけ無防備な「女の子の顔」になっているのが、たまらなく愛おしい。
(もっと、近づきたい)
俺は肘掛けの上、彼女の白くて華奢な手に、自分の手をゆっくりと近づけた。
彼女の指先が、ビクッと微かに震えたのが分かった。だけど、彼女は手を引かなかった。
俺は意を決して、彼女の手の甲を、自分の手のひらでそっと包み込むように重ねた。
「っ……!」
神田さんが小さく息を呑む。
彼女の手は驚くほど冷たくて、そして小さかった。俺はそこに、自分の体温をすべて分け与えるように、優しく、だけど二度と離さないという強い意志を込めて、指を絡ませて(恋人繋ぎをして)しっかりと握りしめた。
「……先輩」
暗闇のなか、彼女が蚊の鳴くような声で俺を呼ぶ。
「これは……仕様書(プラン)に記載のない、想定外のインターフェース接続です……」
「ごめん。でも、仕様書(マニュアル)通りにいかないのが、本気の恋だから」
俺が彼女の耳元でそう囁くと、神田さんは完全に言葉を失い、俺の手をぎゅっと握り返してきた。