アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第51話】
「……神田さん、さっきはごめんね。せっかくのデートなのに、余計なノイズが入っちゃって」
映画館の薄暗いシアター内。プレミアムペアシートのふかふかの座席に深く腰掛けた氷室先輩が、申し訳なさそうに眉を下げて私に囁いた。
上映前の館内は、BGMが静かに流れるだけの、独特の密室空間。
(ノイズどころの騒ぎちゃうわボケェ!!!)
(なんやねん『世界で一番大切にしたい人と人生で初めてのデート中』って! 大学の後輩の女の子たち、完全に魂抜けた顔して霧散していったぞ! 職権乱用ならぬ、顔面乱用による威力業務妨害やないかい!)
「……問題ありません。不測のアクシデント(バグ)に対する、氷室先輩の迅速かつ適切な例外処理(断絶)を高く評価します。総務部監査官として、減点はありません」
私は暗闇のなか、完璧なポーカーフェイスで正面のスクリーンを見つめたまま答えた。だが、お互いの肘掛けが一つしかないこのシート、先輩の体温がすぐ隣から信じられない熱量で伝わってくる。
「そっか、よかった。……じゃあ、映画始まるね」
先輩の長い指が、肘掛けの上で私の手のすぐ近くに置かれた。
本編が始まり、館内の照明が完全に落ちる。大音響の重低音が響くなか、私の脳内お笑い組合は、スクリーンではなく、すぐ隣にある先輩の「手」の動きだけに、すべてのリソースを奪われていた。