アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第50話】氷室視点
「神田監査官、次のステップは予定通り、10時15分発の映画館への移動だけど……問題ない?」
「はい。要求仕様書通りの進行を確認。進捗状況は極めて良好です」
隣を歩く神田さんは、相変わらず眼鏡のブリッジをクイッと押し上げながら、ツンとした声で答える。だけど、その横顔の耳たぶは、新宿の強い日差しよりも真っ赤に染まっていた。
私服の彼女は、会社でのアンドロイドっぷりが嘘のように女の子らしくて、すれ違う男たちが何度も振り返るのが正直言って面白くない。俺は無意識のうちに、彼女との距離を少しだけ詰め、肩が触れ合うくらいの距離で歩いた。
「ひむろー? え、嘘、氷室じゃん! 超久しぶり!」
映画館のロビーに入った瞬間、背後から甲高いいくつかの声が響いた。
振り返ると、そこには華やかな服装をした3人組の女の子たち――大学時代のサークルの後輩たちだった。
「やっぱり氷室だ! 最近サークルOBの集まり全然来ないからみんな寂しがってたんだよ? 今から映画? 私たちと一緒に――」
女の子たちが俺の腕に手を伸ばそうとした瞬間、俺は一歩後ろに下がり、彼女たちの手をスマートに、だけど明確に躱した。
「ごめん、今日は先約があるんだ」
俺は一瞬でビジネスモードの笑顔を作り、彼女たちの視線を遮るように神田さんの前に立った。
「俺が世界で一番大切にしたい人と、人生で初めてのデート中だから。邪魔しないでくれるかな」
サークルの後輩たちが「え……?」と目を見開く。
その背後で、神田さんは「じんせではじめての……たいせつな……」と、先輩のあまりにもストレートな一途発言を脳内でリピート再生し、ついにその場で完全なシステムハングアップ(直立不動)を起こしていた。