アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第5話】
外は予報通りの土砂降りになっていた。
17時半の定時を過ぎ、オフィスの人口は半分ほどに減っている。私はデスクの引き出しに鍵をかけ、帰宅の身支度を整えていた。
「神田さん、ちょっと、大変なことが起きたんだけど……」
背後から、怯えたような、そしてひどく困惑した声がした。
振り返ると、そこには経営企画部の若きエースであるはずの氷室蓮が、まるでこの世の終わりを迎えたような顔で立ち尽くしていた。その両腕には、大きな段ボール箱が大事そうに抱えられている。
「どうされましたか、氷室先輩。私はこれから退勤いたしますが」
「待って、本当に神田さんしか頼れないんだ。これ、見て」
氷室がデスクにドン、と置いた段ボール箱の中身を覗き込み、私は言葉を失った。
そこにあったのは、書類ではなかった。
細切れになり、もはや原型を留めていない**「大量の紙のゴミ」**。そう、シュレッダーにかけられた直後の、あの白い素麺のような紙カスの山だった。
「……これは何ですか」
「さっきさ、部長に『この前の経営会議の議事録、至急、シュレッダーにかけて提出してくれ』って言われたんだよ。だから俺、急いでシュレッダー室に行って、50ページ近くある原本を全力で粉砕したんだけど……これ、どうやって提出すればいいと思う?」
氷室は、大真面目な顔で細切れの紙をひと掴みし、私に見せてきた。その瞳はどこまでも純粋で、悪意の欠片もない。
私の脳内のプロ漫才師が、一斉に立ち上がってパイプ椅子をひっくり返した。
(は?)
(シュレッダーにかけてから提出!? んなわけあるかいな!!!)
(部長が言ったんは『修正(しゅうせい)して提出』やろがい! なんで『しゅ』しか合ってへんのに全力で粉砕しとんねん! 提出された部長、これからデスクでパズル始めなあかんやんけ! どんな嫌がらせや!)
「神田さん……? 顔、怖いよ?」
氷室が不思議そうに、私の顔を覗き込んできた。
その無垢な、そして社内の女子を狂わせていると噂のイケメンな顔が、信じられないほど至近距離に迫る。
その瞬間、私の中で、26年間守り続けてきた「真面目な優等生」の決壊が決壊した。脳内のツッコミが、ついに声帯を震わせて外へと飛び出す。