【第45話】
「お姉ちゃん、あの男の人……本気も本気、大マジだよ。私、あんなガチの目をした人間初めて見た。沼の底で待ってるとかパワーワードすぎるでしょ。……もう諦めて沈んできなよ。じゃあね」
嵐のような捨て台詞を残して、結衣は去っていった。
残されたカフェのテラス席。京都の出汁ジュレが美しく層を成すパフェの前で、私の脳内CPUは完全にバグを起こし、処理能力はゼロになっていた。
(沈んできなよってなんやねん! 妹が姉を沼に突き落とすなボケェ!!! ほんで先輩も先輩や! なんやねん『沼の底で待ってる』って! 妖怪かワレ! 泥の妖怪か!!)
「神田さん、顔すごい赤いよ? 大丈夫? ……あ、もしかして、今のセリフ、ちょっと攻めすぎちゃったかな」
先輩は椅子を引き、私の顔を覗き込んできた。
その端正な顔立ちには、チャラついた余裕なんて微塵もない。私を本当に心配し、そして愛おしそうに見つめる、世界で一番真剣な瞳がそこにあった。
「……っ、先輩。そのような、少女漫画の最終回間際のような破壊力を持つセリフの出力は、社内コンプライアンス……ではなく、私の精神衛生上、重大な規律違反です」
私はスプーンを握りしめたまま、必死に標準語のポーカーフェイスを再起動(リブート)しようとした。だが、完全に熱を持った頬の温度は下がる気配がない。
「規律違反なら、罰則を受けなきゃね。……ねえ、神田さん。来週の土曜日、仕事の用事じゃなくて、本当のデート、俺と行ってくれない?」
先輩の手が、テーブルの上で私の手元にそっと近づく。
「今度はパフェの監査(しごと)じゃないよ。俺が、神田律さんっていう女の子を、ただひたすらに甘やかすための時間。……ダメかな?」
低い、耳に心地よく響くバリトンボイス。
脳内お笑い組合のツッコミ担当が、メガホンを床に落として「……あかん、これはツッコミきれへんわ」と両手を挙げた。
「……検討、いたします。ただし、仕様書(プラン)の事前提出を条件とします」
私は俯いたまま、消え入りそうな声でそう答えるのが精一杯だった。
「お姉ちゃん、あの男の人……本気も本気、大マジだよ。私、あんなガチの目をした人間初めて見た。沼の底で待ってるとかパワーワードすぎるでしょ。……もう諦めて沈んできなよ。じゃあね」
嵐のような捨て台詞を残して、結衣は去っていった。
残されたカフェのテラス席。京都の出汁ジュレが美しく層を成すパフェの前で、私の脳内CPUは完全にバグを起こし、処理能力はゼロになっていた。
(沈んできなよってなんやねん! 妹が姉を沼に突き落とすなボケェ!!! ほんで先輩も先輩や! なんやねん『沼の底で待ってる』って! 妖怪かワレ! 泥の妖怪か!!)
「神田さん、顔すごい赤いよ? 大丈夫? ……あ、もしかして、今のセリフ、ちょっと攻めすぎちゃったかな」
先輩は椅子を引き、私の顔を覗き込んできた。
その端正な顔立ちには、チャラついた余裕なんて微塵もない。私を本当に心配し、そして愛おしそうに見つめる、世界で一番真剣な瞳がそこにあった。
「……っ、先輩。そのような、少女漫画の最終回間際のような破壊力を持つセリフの出力は、社内コンプライアンス……ではなく、私の精神衛生上、重大な規律違反です」
私はスプーンを握りしめたまま、必死に標準語のポーカーフェイスを再起動(リブート)しようとした。だが、完全に熱を持った頬の温度は下がる気配がない。
「規律違反なら、罰則を受けなきゃね。……ねえ、神田さん。来週の土曜日、仕事の用事じゃなくて、本当のデート、俺と行ってくれない?」
先輩の手が、テーブルの上で私の手元にそっと近づく。
「今度はパフェの監査(しごと)じゃないよ。俺が、神田律さんっていう女の子を、ただひたすらに甘やかすための時間。……ダメかな?」
低い、耳に心地よく響くバリトンボイス。
脳内お笑い組合のツッコミ担当が、メガホンを床に落として「……あかん、これはツッコミきれへんわ」と両手を挙げた。
「……検討、いたします。ただし、仕様書(プラン)の事前提出を条件とします」
私は俯いたまま、消え入りそうな声でそう答えるのが精一杯だった。



