アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第44話】氷室視点
「あ、はじめまして。神田さんの会社の先輩の、氷室です。いつもお姉さんにはお世話になってます」
俺が席を立ち、極めて誠実に頭を下げると、神田さんの妹さん(結衣ちゃん)は、俺の顔と神田さんの顔を何度も往復するように凝視した。そして、その目が一瞬で、警戒心の塊のような鋭いものに変わる。
「……氷室、さん。あー……。髪がパーマで、シャツのボタンが外れてて、仕事ができて、誰にでもチャラチャラしてそうなのに実は一途、っていう……」
結衣ちゃんは、ブツブツと何事かを呟きながら、神田さんの袖をグイッと引っ張った。
「ちょっとお姉ちゃん、こっち来て」
「え、あ、業務外の強制連行は労働基準法に――」
神田さんがロボットみたいに硬直したまま、テラス席の隅へと連行されていく。
俺は置いて行かれたパフェを見つめながら、少しだけ苦笑いした。なるほど、あの妹さんがセキュリティパッチ、神田さんに「沼の警告」を出した張本人か。
数メートル先で、妹さんが神田さんの耳元で、はっきりと聞こえるくらいの声で囁いているのが見えた。
「お姉ちゃん! あんたあれだけ私が『そういうギャップのあるチャラ男が一番底なしの沼だから関わるな』って言ったのに、なんでサシでパフェ食べてんの!? しかも何その服! 色気づいちゃって!!」
神田さんは顔を真っ赤にしながら、「こ、これはパフェの監査であって私的交流では――」と必死に防戦一方になっている。
俺はふっと笑い、二人のもとへと歩み寄った。
ここで引き下がるようじゃ、一途な男の名が廃る。
「結衣ちゃん、だよね? 噂は神田さんから聞いてるよ」
「え……」
俺は結衣ちゃんの目を真っ直ぐに見つめ、一歩も引かずに、かつてないほど真剣な声で告げた。
「お姉さんが言ってた通り、俺はチャラそうに見えるかもしれない。でも、俺の『一途さ』は本物だから。神田さんを沼に沈めるつもりはないよ。俺が、彼女を世界で一番幸せにするために、この底なし沼の底でずっと待ってるだけだから」
「……は!?」
結衣ちゃんが完全に絶句して目を見開く中、隣の神田さんは、ついに顔面がトマトのように沸騰し、頭頂部からプシューと煙が出る幻覚が見えるほどのオーバーヒートを起こしていた。