アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第42話】氷室視点
駅前の落ち着いたカフェのテラス席。俺は約束の5分前には到着し、そわそわと入り口を見つめていた。
いつも会社で見せる、完璧にプレスされたスーツ姿の神田さん。
そんな彼女が、プライベートでどんな姿を見せてくれるのか。期待と緊張で、点滴を打っていた時よりも心臓がバクバクと五月蝿い。
「……お待たせいたしました、氷室先輩」
聞き慣れた、だけど少しだけ緊張を含んだ声。
振り返った俺は、持っていたメニュー表をそのまま床に落としそうになった。
そこにいたのは、いつもの黒髪をゆるくハーフアップに結い、柔らかなベージュのニットに、ロングスカートを合わせた神田さんだった。トレードマークの眼鏡はそのままだが、スーツの鎧を脱いだ彼女は、驚くほど華奢で、どこか儚げで、猛烈に可愛かった。
「神田さん……それ、私服? めちゃくちゃ可愛い……」
「……先輩、カフェのテラス席で大声を出すのは、周囲の環境に対する騒音公害です。速やかに音量をミュートにしてください」
彼女はバッと顔を背けた。
だけど、相変わらず嘘をつけない彼女の耳たぶは、ニットの襟元から覗く白い首筋まで、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「ごめんごめん、あまりに素敵でさ。はい、これ。今日はお酒じゃなくて、ここのお店の特製『宇治抹茶と出汁の和風パフェ』。神田さんのために予約しといたんだ」
俺が笑顔でメニューを指さすと、神田さんは一瞬、目を丸くしてフリーズした。
そして、ゆっくりと首を回し、眼鏡の奥の瞳で俺をギロリと睨みつけてきた。
「……先輩。私は業務外の時間を差し出したまでです。このような『超高確率で私の好みにクリティカルヒットする糖分』で、これ以上システムを揺るがせると思わないでください」
「揺るがせるつもりだよ。俺は一途だから、仕事のあんたも、プライベートのあんたも、全部俺のものにしたいんだよね」
俺が声を低くして身を乗り出すと、神田さんは「……っ!」と息を呑んだまま、ついに言葉を失って、パフェのスプーンを握りしめたまま固まった。