【第40話】氷室視点
「……俺が好きなのは、真面目で、優しくて、俺のくだらない言葉に全力で突っ込んでくれる、神田律さんだけだから」
医務室の白い天井の下、俺は生まれて初めて、飾り気のない本物の言葉を口にした。
チャラついた王子様のセリフじゃない。胸の奥をギリギリと締め付ける、泥臭い本音だ。
隣に座る神田さんは、微動だにせず俺の言葉を聞いていた。
いつものように「誰がそんなこと言ったボケナス!」というキレのある関西弁は返ってこない。だけど、彼女のポーカーフェイスは、先週までの冷酷な「無」とは明らかに違っていた。
彼女の長い睫毛が、細かく刻むように震えている。
握りしめられた白い拳が、膝の上で小さく震えている。
そして、眼鏡のレンズの奥にあるその瞳が、じわじわと、夕焼けのような熱い潤いを帯びていくのを、俺は見た。
「……先輩」
ようやく届いた彼女の声は、驚くほど小さく、掠れていた。
「私は……アンドロイドです。融通が利かなくて、マニュアル通りにしか動けなくて、面白みのない人間です」
「そんなことない。俺にとっては、世界で一番魅力的な女の子だよ」
「……黙りなさい。私の仕様(スペック)を勝手に書き換えるな」
神田さんはバッと顔を背けた。
だが、隠しきれていない。彼女の白い首筋から、耳の付け根、そして頬にかけて、真っ赤な紅潮が津波のように広がっていく。
「神田さん、俺、元気になったらさ……仕事の用事じゃなくて、プライベートな時間、俺に少しだけくれないかな」
俺が手を伸ばし、彼女の制服の袖をそっと引くと、彼女は一瞬だけビクッと身体を強張らせ、それから蚊の鳴くような声で、だけど確実に、エセ関西弁ではない言葉を口にした。
「……仕様書の確認が、先です」
それは、彼女が俺の「アクセス権」を、ついに承認してくれた瞬間だった。
「……俺が好きなのは、真面目で、優しくて、俺のくだらない言葉に全力で突っ込んでくれる、神田律さんだけだから」
医務室の白い天井の下、俺は生まれて初めて、飾り気のない本物の言葉を口にした。
チャラついた王子様のセリフじゃない。胸の奥をギリギリと締め付ける、泥臭い本音だ。
隣に座る神田さんは、微動だにせず俺の言葉を聞いていた。
いつものように「誰がそんなこと言ったボケナス!」というキレのある関西弁は返ってこない。だけど、彼女のポーカーフェイスは、先週までの冷酷な「無」とは明らかに違っていた。
彼女の長い睫毛が、細かく刻むように震えている。
握りしめられた白い拳が、膝の上で小さく震えている。
そして、眼鏡のレンズの奥にあるその瞳が、じわじわと、夕焼けのような熱い潤いを帯びていくのを、俺は見た。
「……先輩」
ようやく届いた彼女の声は、驚くほど小さく、掠れていた。
「私は……アンドロイドです。融通が利かなくて、マニュアル通りにしか動けなくて、面白みのない人間です」
「そんなことない。俺にとっては、世界で一番魅力的な女の子だよ」
「……黙りなさい。私の仕様(スペック)を勝手に書き換えるな」
神田さんはバッと顔を背けた。
だが、隠しきれていない。彼女の白い首筋から、耳の付け根、そして頬にかけて、真っ赤な紅潮が津波のように広がっていく。
「神田さん、俺、元気になったらさ……仕事の用事じゃなくて、プライベートな時間、俺に少しだけくれないかな」
俺が手を伸ばし、彼女の制服の袖をそっと引くと、彼女は一瞬だけビクッと身体を強張らせ、それから蚊の鳴くような声で、だけど確実に、エセ関西弁ではない言葉を口にした。
「……仕様書の確認が、先です」
それは、彼女が俺の「アクセス権」を、ついに承認してくれた瞬間だった。



