アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第28話】氷室視点
「……マーケティング戦略に対する驚嘆の念です。問題ありません」
グラスの向こうで、黒い瞳をせわしなく動かしながら、必死に「アンドロイド」のポーカーフェイスを上書きしようとしている神田さん。
だが、隠しきれていない。彼女の耳たぶは、お酒を一口も飲んでいないというのに、完全に茹で上がったタコのように真っ赤になっている。
(ぶっ……! ほんと、面白すぎるだろこの人)
俺は自分の手で口元を覆い、肩を震わせて笑った。
週末にセキュリティパッチでもされたのか、今週の彼女のガードはいつにも増して固かった。話しかけても「承知いたしました」「以上です」の三文字でシャットアウト。
だからこそ、この飲み会の席で、彼女が一番油断できない「大好物」を使って揺さぶりをかけてみたのだが……狙い通り、完璧なエセ関西弁のツッコミが暴発してくれた。
「ほら、マーケティング戦略の味、試してみてよ。俺、神田さんが美味しそうに食べてるところ見るの、一番好きなんだよね。一途だから、そういう細かいツボも全部覚えてるから」
俺が声を低くして、彼女の耳元で囁く。
普通の女の子なら、ここで完全に顔を伏せるか、照れて何も言えなくなる。
だが、神田律はやはり一筋縄ではいかなかった。
彼女は出汁サイダーのグラスをグッと掴むと、眼鏡の奥の瞳で、俺を完全に「不法投棄された産業廃棄物」を見るような冷たい目で見つめ返してきたのだ。
「氷室先輩。その無駄に精度の高い記憶リソースは、来週のシステムテストのバグ検出に割り当ててください。これ以上のシステム負荷は、私の防衛プログラムによって強制シャットダウンの対象となります」
冷徹。完璧な塩対応。
だけど、差し出された出汁サイダーを一口飲んだ瞬間、彼女の眉が「美味しい……!」と一瞬だけ幸せそうに跳ねるのを、俺は見逃さなかった。