アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第27話】
金曜日の20時。新橋の少し小綺麗なおばんざい屋で、プロジェクトの第一フェーズ完了を祝う打ち上げが開催されていた。
「神田さん、お疲れ様! 本当に今回のデータ移行、神田さんがいなかったら終わってなかったよ」
「野村部長、過分なお言葉ありがとうございます。私は総務部員としての職務を全行したに過ぎません」
私は背筋をまっすぐに伸ばし、ウーロン茶のグラスを完璧な角度で傾けた。
今日の私の目標はただ一つ。【1ミリもバグを起こさず、完璧なビジネスライクのまま帰宅すること】。酒は一切口にしない。上司へのお酌は迅速かつ機械的にこなし、周囲の雑談には正確に2秒間微笑むだけ。これぞ「飲み会専用アンドロイドモード」だ。
「神田さん、ウーロン茶ばっかりじゃつまんないでしょ。ほら、これ」
最悪のタイミングで、隣の席にスッと影が滑り込んできた。氷室先輩だ。
先輩はジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖を少し腕まくりしている。手には、なぜかメニューには載っていないはずの、綺麗なすりガラスの瓶が握られていた。
「これさ、京都のすっごい珍しいノンアルコールの出汁サイダーなんだって。お店の人にお願いして出してもらった。神田さん、出汁好きでしょ?」
先輩は私の顔を覗き込み、あの無駄に爽やかなイケメンスマイルを向けてきた。
(出汁サイダーやと!?)
(なんやそのニッチすぎる飲み物は! ほんでなんでノンアルコールやねん! 私が『お酒飲んだらバグるからウーロン茶にしてる』ってことを見抜いた上で、退路を断つように好物ぶち込んできとるやないかい! 策士かワレ!)
「……っ、策士かワレ!!!」
やってしまった。本日最初の特大誤爆。
周囲のガヤガヤした声にかき消されたかと思ったが、対面に座っていた野村部長が「ん? 神田さん、何か言った?」と目を瞬かせた。
私は一瞬で血の気が引くのを感じながら、即座にウーロン茶のグラスで口元を隠し、冷徹なトーンを発声した。
「……失礼いたしました。飲食業界の斬新なマーケティング戦略に対する、総務部としての驚嘆の念が口から漏れました。問題ありません」