アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第25話】
月曜日の朝、9時00分。
私はデスクに向かい、完璧に初期化(リセット)されたポーカーフェイスでPCを起動した。
週末の妹からの警告は、私の行動指針を完全に決定づけた。氷室蓮という男は、近づけば近づくほど判断力を狂わせる危険な『沼』だ。関わるのは業務のみ。プライベートな感情の隙間は1ミリも与えない。
「おはよう、神田さん! はい、今週の――」
「おはようございます、氷室先輩」
デスクの横に影が落ちるのと同時に、私は先輩が言葉を紡ぎきる前に完璧な低音ボイスで被せた。首の角度は正確に15度。目線は画面から一切動かさない。
「今週のミーティング資料ですね。受領いたします。こちらが先週分の進捗報告書です。ご確認ください。以上です」
機械的に書類を差し出し、即座にタイピングを再開する。「タタタタン!」と規則正しい音がオフィスの静寂に響く。
氷室先輩は、差し出された書類を持ったまま、完全に言葉を失って硬直していた。
(どうや! これが私の完全無欠のビジネスライクモードや! 付け入る隙なんか微塵もないやろ! 用件は3秒で終了や、とっとと自分のフロアへお帰りくださいチャラ男先輩!)
「……神田さん?」
「何か業務上の不備がございましたでしょうか。ないようでしたら、私の次のタスクの妨げになりますので、ご移動をお願いいたします」
冷徹。氷点下の塩対応。眼鏡の奥の黒目は、冷たいガラス玉のように先輩を映し出す。
先輩は少しだけ目を丸くしたあと、ふっとその端正な唇を歪めて笑った。いつもの軽いノリではない、どこかゾクッとするような、楽しげな笑みだった。