【第24話】氷室視点
「神田さん、おつかれ。はい、これ今日の分の――」
夕方、総務部のフロアに資料を届けに行くと、神田さんはPC画面を親の仇かのような凄まじい眼光で睨みつけていた。タイピングの音が「タタタタン!」とオフィスに銃声のように響いている。
「神田さん? 機嫌悪い?」
「滅相もございません。私は常に一定のパフォーマンスを維持するアンドロイドですので、機嫌という概念は存在しません」
冷徹。温度は氷点下。いつも以上に頑丈な防壁が張り巡らされている。
だけど、俺は見逃さなかった。彼女のデスクの隅にあるメモ帳に、赤ペンで「レシーブ禁止」「衛生管理」と謎の単語が殴り書きされているのを。
(……ん? もしかして)
昼間、開発部の先輩から「これチームの皆で食べて」とクッキーの箱を渡された時、ちょうど総務部の後輩が近くを通ったのを思い出した。それが彼女の耳に入ったのだろうか。
「神田さんさ、もしかして俺が昼間、女の子から差し入れ貰ってたの、気にしてる?」
俺が声を低くして顔を近づけると、神田さんのタイピングの手がピタッと止まった。
彼女はゆっくりと首を回し、眼鏡の奥の黒い瞳で、俺を完全に液晶画面越しに生ゴミを見るような目で捉えた。
「自意識過剰のバグが発生しているようですので、再起動をお勧めします。先輩がどこのどなたから手作りの愛を受け取ろうが、我が総務部の関知するところではありません」
手強い。完璧なシャットアウト。
だけど、彼女の口調がいつもよりほんの少しだけ早口で、突き放すようなトーンになっている。それは彼女が「動揺を隠そうとしている時」の癖だ。
「あれ、チーム用のだから俺は食べてないし、その先輩には『俺、ずっと好きな人がいるんで、個人的な差し入れは受け取れないんです』ってハッキリ断ったよ。一途だからね」
俺が真っ直ぐに彼女の目を見つめて言うと、神田さんは一瞬、息を呑んだように目を丸くした。
そして、みるみるうちに彼女の白い頬が、夕焼けのように赤く染まっていく。
「……だ、誰がそんな報告を求めた!!! 聞いてへんわボケナス!!!」
ついにオフィスで、完璧な声量でのツッコミが暴発した。
周囲の社員が一斉にこちらを振り返る中、彼女は真っ赤になった顔を隠すように両手で顔を覆い、デスクに突っ伏した。
「神田さん、おつかれ。はい、これ今日の分の――」
夕方、総務部のフロアに資料を届けに行くと、神田さんはPC画面を親の仇かのような凄まじい眼光で睨みつけていた。タイピングの音が「タタタタン!」とオフィスに銃声のように響いている。
「神田さん? 機嫌悪い?」
「滅相もございません。私は常に一定のパフォーマンスを維持するアンドロイドですので、機嫌という概念は存在しません」
冷徹。温度は氷点下。いつも以上に頑丈な防壁が張り巡らされている。
だけど、俺は見逃さなかった。彼女のデスクの隅にあるメモ帳に、赤ペンで「レシーブ禁止」「衛生管理」と謎の単語が殴り書きされているのを。
(……ん? もしかして)
昼間、開発部の先輩から「これチームの皆で食べて」とクッキーの箱を渡された時、ちょうど総務部の後輩が近くを通ったのを思い出した。それが彼女の耳に入ったのだろうか。
「神田さんさ、もしかして俺が昼間、女の子から差し入れ貰ってたの、気にしてる?」
俺が声を低くして顔を近づけると、神田さんのタイピングの手がピタッと止まった。
彼女はゆっくりと首を回し、眼鏡の奥の黒い瞳で、俺を完全に液晶画面越しに生ゴミを見るような目で捉えた。
「自意識過剰のバグが発生しているようですので、再起動をお勧めします。先輩がどこのどなたから手作りの愛を受け取ろうが、我が総務部の関知するところではありません」
手強い。完璧なシャットアウト。
だけど、彼女の口調がいつもよりほんの少しだけ早口で、突き放すようなトーンになっている。それは彼女が「動揺を隠そうとしている時」の癖だ。
「あれ、チーム用のだから俺は食べてないし、その先輩には『俺、ずっと好きな人がいるんで、個人的な差し入れは受け取れないんです』ってハッキリ断ったよ。一途だからね」
俺が真っ直ぐに彼女の目を見つめて言うと、神田さんは一瞬、息を呑んだように目を丸くした。
そして、みるみるうちに彼女の白い頬が、夕焼けのように赤く染まっていく。
「……だ、誰がそんな報告を求めた!!! 聞いてへんわボケナス!!!」
ついにオフィスで、完璧な声量でのツッコミが暴発した。
周囲の社員が一斉にこちらを振り返る中、彼女は真っ赤になった顔を隠すように両手で顔を覆い、デスクに突っ伏した。



