アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第22話】氷室視点
「エラーの原因、特定しました。やはり、日付データの『スラッシュ区切り』と『ハイフン区切り』のミスマッチです。ここを置換します」
経営企画部の俺のデスクで、神田さんは恐ろしいスピードでキーボードを叩き、エラーログの海から一瞬で原因を掘り当ててみせた。
隣でその横顔を見つめながら、俺は胸の奥が熱くなるのを抑えきれなかった。
社内の連中は、トラブルが起きると慌てふためくか、責任の擦り付け合いを始める。
だけど、神田律という女の子は違う。
どんな緊急事態でも、鉄のポーカーフェイスを崩さず、淡々と、かつ誰よりも正確に解決への最短ルートを導き出す。
(やっぱり、俺の目に狂いはなかった……)
「神田さん、本当に助かった。ありがとう」
「お礼なら、今回の修正ログをシステム開発会社に送付し、再発防止策をドキュメント化して提出してください。それが最大の報酬です」
相変わらず冷たい、事務的な言葉。
だけど、俺は気づいていた。カタカタとキーボードを叩く彼女の指先が、さっきから少しだけ震えていることに。本当は、彼女だって怖かったはずだ。全社システムが止まるかもしれないというプレッシャーの中で、必死に戦っていたんだ。
俺はそっと、彼女のデスクの端に、昨日彼女が置いていった塩キャラメルクッキーの袋を滑らせた。
「これ、糖分補給。頑張った神田さんへの、俺からの『特別報酬』ね」
神田さんの手がピタッと止まった。彼女はゆっくりと首を回し、眼鏡の奥の黒い瞳で俺をギロリと睨みつけた。
「……先輩。私は業務を遂行したまでです。このような『餌』で手懐けられると思わないでください」
「手懐けようなんて思ってないよ。俺はただ、頑張ってる大好きな人を支えたいだけ。一途だからね」
俺が声を低くして微笑むと、彼女は一瞬、息を呑んだように唇を震わせた。
いつものキレのあるツッコミが返ってこない。その代わりに、彼女の白い首筋が、みるみるうちに真っ赤に染まっていくのが見えた。