アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第21話】
「神田さん、大変! 会計システムとのデータ連携テスト、全件エラーで弾かれちゃった!」
火曜日の朝8時45分。始業前の静かなオフィスに、プロジェクトメンバーの後輩が悲鳴のような声を響かせた。
私は持っていたマイボトルをデスクに置き、即座に画面へ視線を走らせる。
画面に並ぶのは、不気味な赤文字のログ。「Error Code: 505」「データ型不一致」。
(……はあ!?)
(全件エラーって何や! どんな大惨事や! 連携ボタン押した瞬間、システムが『こんなデータ食えるかボケ!』って皿ひっくり返して怒り狂っとる状態やないかい! 開発会社のデバッグ機能はどうなっとんねん!)
「……っ、システムが皿ひっくり返して怒り狂っとるやないかい!!」
「えっ、お皿……?」
後輩が目を丸くしてフリーズする。私はすかさず眼鏡のブリッジを押し上げ、冷徹なトーンで上書きした。
「失礼。メインサーバーの処理能力が限界を迎え、データを拒絶しているという比喩です。氷室先輩には?」
「いま連絡したんだけど、まだ席にいなくて……」
「ここにいるよ」
低い、少し息の切れた声が背後からした。
振り返ると、ジャケットを片手に持った氷室先輩が立っていた。いつもなら完璧にセットされているパーマ髪が、少し汗で額に張り付いている。駅から走ってきたのだろう。
「状況は把握した。神田さん、総務部側のマスターデータ、直近でフォーマットの変更とかあった?」
先輩の目は、いつものチャラついた光を完全に消し去り、鋭い『プロフェッショナル』のそれに変わっていた。その真剣な表情に、私の胸がドクンと嫌な跳ね方をする。
「……いえ、変更はありません。ですが、先週先輩が提出された『要求仕様書モドキ』の段階で、日付のフォーマット指定が漏れていた可能性があります」
「俺のミスか……。よし、すぐにログを解析しよう。神田さん、悪いけど10分だけ、俺のデスクで一緒にデータ突き合わせてくれる?」
先輩は私の目を真っ直ぐに見つめて言った。その瞳には、一変の迷いも、甘えもなかった。