アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第20話】氷室視点
「……先輩。私の定時退勤ロードマップを阻害する行為は、威力業務妨害に該当します」
真っ赤になった耳を隠すように黒髪をかき上げ、冷徹な声で俺を脅してくる神田さん。
だが、その視線は俺の手にある塩キャラメルクッキーに、ほんの一瞬だけ吸い寄せられていた。食いしん坊な本音が隠せていない。
(ぶっ……! ほんと、分かりやすくて可愛いな)
「ハッキングなんてしてないよ。前に神田さんが佐藤さんと給湯室で『塩キャラメル味って最高よね』って話してるの、偶然通りかかった時に聞いたんだ。俺、一途だから、好きな人の情報は一文字も聞き逃さないって決めてるからさ」
俺が声を低くして、わざと彼女の顔の近くまで距離を詰めると、神田さんは一歩も引かずに俺の胸元を書類ファイルでパシッと叩いた。
「『好きな人』などという未確認オブジェクトの名前をオフィスで口にしないでください。周囲に不要なノイズが拡散されます」
手強い。本当に、どんなに甘い球を投げても、全部硬質なコンクリートの壁で打ち返される。
でも、俺は知っている。
彼女がこうして全力でツッコミを入れてくれるのは、俺の言葉を無視せずに、ちゃんと正面から受け止めてくれている証拠だ。他の女の子みたいに、俺の顔や肩書だけを見て適当に合わせているんじゃない。
「わかった。じゃあクッキーはここに置いておくね。明日、このマッピングの件、朝イチで一番に神田さんの意見を聞かせてよ」
俺がクッキーをデスクに置いて微笑むと、彼女はフンと鼻を鳴らし、完璧な姿勢でオフィスの出口へと歩き出した。
「気が向いたら、ゴミ箱に入れる前に一読いたします」
冷たい捨て台詞。だけど、その背中はどこか少しだけ、いつもより歩幅が狭くなっているように見えた。