アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第18話】氷室視点
「――スローガンが口から漏れました。続けてください」
淡々とPC画面を見つめながら、平然と言い放つ神田さん。
だが、その頬はうっすらと赤くなり、タイピングするスピードが明らかにいつもの倍速になっている。動揺が指先に出まくっているのが、たまらなく愛おしい。
(ぶっ……! ほんと最高だな、この人)
俺はホワイトボードの影で、必死に笑いを堪えながらペンを握り直した。
社内の他の奴らは、俺が「アジャイル」だの「スキーム」だの言うと、「さすが氷室さん、視野が広いですね」と中身も理解せずに合わせてくる。正直、そういう薄っぺらい会話には飽き飽きしていた。
だけど、神田さんは俺の気取った横文字のメッキを、一瞬で、しかも最高にキレのあるエセ関西弁で剥ぎ取ってくれる。彼女と仕事をしていると、自分が一人の生身の人間として向き合えている実感が湧くんだ。
「わかった。じゃあ『みんなで仲良く頑張る手順』に修正するよ。神田さんの言う通り、分かりやすさが一番だしね」
俺がそう言って微笑むと、神田さんは画面から目を離さないまま、小声で呟いた。
「……最初からそうしてください。先輩の脳内ディクショナリー、一度総務部で検閲した方がよろしいかと思いますので」
手強い。会議室に人がいるからか、すぐに「アンドロイド神田」の防壁を再構築してくる。
だけど、俺の心はもう完全に彼女にロックオンされている。学生時代からずっと抱えていた『一途な箱』の鍵は、もう彼女のツッコミによって壊されかけていた。
「じゃあ今日のミーティングはここまで。神田さん、この後『仲良く頑張る手順』のすり合わせ、デスクで残業付き合ってくれる?」
俺がそう言うと、彼女はPCをパタンと閉じ、今日一番の冷徹な目をこちらに向けた。
「お断りします。私の定時退勤スキームに、先輩とのコミットメントは含まれておりませんので」
(くー! 横文字で返してきた!)