アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第15話】
「神田さん、経営企画部から今回のシステム刷新に伴う、総務部側の要求仕様書のベースが届いたんだけど……これ、ちょっと見てくれる?」
火曜日の朝、プロジェクト初日。佐藤先輩が引きつった顔で私の席にファイルを差し出してきた。
開いた瞬間、私の網膜に飛び込んできたのは、あまりにも『アーティスティック』すぎる手書きのポンチ絵と、テキストデータの羅列だった。
差出人の名前を見るまでもない。フォントの統一感のなさ、無駄にカラフルな色使い、そして「いい感じに自動化する」という、具体性のカケラもない箇条書き。
(……なんやこれ)
(要求仕様書って文字読めるかワレ!? これ、仕様書やなくてただの『僕の考えた最強のシステム』っていう落書きやないかい! ほんで『いい感じに自動化』って何や! AIはお前の召使いちゃうぞ!)
「……っ、AIはお前の召使いちゃうぞ!!」
「ひっ!」と佐藤先輩が短い悲鳴を上げて一歩下がった。
まただ。またオフィスのど真ん中でやってしまった。私はすかさずファイルを顔の前に掲げ、ディフェンスの姿勢を取る。
「……申し訳ありません。昨今のAI技術の急速な発展に対する、技術的な懸念が口から漏れました」
「そ、そう? 最近の神田さん、たまに言語のバグが発生するわね……」
佐藤先輩が困惑しながら去っていく。私はファイルを掴み、そのまま経営企画部のフロアへと直行した。この落書きを仕様書として受理するわけにはいかない。総務部の意地と論理的思考力を見せてやる。
経営企画部のフロアに入ると、氷室先輩はすでに自分の席で、何やら熱心に分厚いシステム要件の専門書をめくっていた。普段のルーズな雰囲気とは違い、眼鏡をかけてPC画面を睨みつけるその表情は、驚くほど真剣だった。
「氷室先輩。この要求仕様書モドキについて、至急説明を求めます」
私がファイルをデスクに叩きつけると、先輩は眼鏡を外し、嬉しそうに顔を上げた。
「あ、神田さん! 早いね。それ、俺なりに総務部の業務フローを勉強して、一番効率化できそうなところをまとめたんだ」
「効率化の前に、まず日本語の効率化をしてください。この『いい感じに』という文言は、システムエンジニアに対する冒涜です」
私は冷徹に言い放ち、持参した赤ペンで修正箇所を次々と指摘し始めた。