アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない

【第14話】氷室視点
「――以上が、今回のプロジェクトの概要だ。期間は約半年。各部署の調整が必要になるから、二人の連携が鍵になる。期待しているよ」
両部長が説明を終え、会議室を出て行った。
残されたのは、俺と、完全に石化している神田さんの二人だけ。
彼女はメモ帳を見つめたまま、ピクリとも動かない。黒髪の隙間から見える横顔は、相変わらず冷徹な「アンドロイド神田」そのものだが、俺にはわかる。彼女の頭の中の処理能力は、今、限界突破して煙を吹いているはずだ。
「神田さん」
「……」
「神田さんってば」
「……業務上の会話以外は受け付けません」
「いや、完璧に業務の話だよ? これから半年間、毎日一緒に残業することになるかもね」
俺がデスクに身を乗り出して覗き込むと、神田さんはようやくこちらを向いた。眼鏡の奥の黒い瞳が、怒りと困惑で小さく揺れている。
(あー、やっぱり面白いな)
社内の他の女の子なら、「氷室さんと半年も一緒なんて嬉しい!」と喜ぶか、あるいは緊張して俯くかのどちらかだ。なのに神田さんは、俺との共同プロジェクトを「地球滅亡の危機」みたいな顔で迎えている。
俺は昔から、一度「これだ」と決めたら絶対に曲げない。
学生時代、ある雨の日に見かけた、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも不器用だった女の子の面影を、俺はずっと忘れられずにいた。その「理想の影」を追い求めて、誰とも付き合わずにここまできた。
だけど、今、目の前で「なんで私がこいつと……」と全身で拒絶のオーラを放っている神田律という女の子は、その過去の影すらも吹き飛ばすくらい、俺の心を強烈に惹きつけて離さない。
「神田さん、俺、仕事に関しては結構しつこいよ? 一途だからさ」
「……先輩の一途さの定義が、ストーカーのそれと酷似している件について、後ほど報告書を提出してもよろしいでしょうか」
低い、突き放すような声。なのに、その唇は微かに震えている。
「いいよ、いくらでも読ませて。じゃあ、明日からのキックオフミーティング、よろしくね。相棒」
俺が右手を差し出すと、彼女はその手を完璧に無視し、資料を美しく揃えて立ち上がった。
「失礼します。業務に戻りますので」
冷たく言い放って会議室を出ていく彼女の背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
手強い。本当に手強い。だけど、この半年間で、彼女のその鉄壁の心の鍵を、俺の「一途さ」で全部こじ開けてみせる。
そう決意した月曜日の午後だった。