【第13話】
「神田さん、ちょっと今すぐ第3会議室へ来てくれる?」
月曜日の昼下がり、総務部長の野村さんが、普段は見せないような神妙な面持ちで私の席にやってきた。手には「社外秘」と朱書きされたクリアファイルが握られている。
「第3会議室ですか? 承知いたしました」
私はPCをロックし、メモ帳とペンを持って席を立った。
隣の席の佐藤さんが、「え、何事? 怒られるの?」と小声で心配そうな視線を送ってきたが、私にも全く心当たりがない。遅刻もミスもしていないし、まさか朝の「マイナスイオン誤爆事件」が部長の耳に入ってコンプライアンス違反に問われたわけではあるまい。
(いや、まさかな……。もしアレが理由やったら、私は『就業時間中に上司の喉にマイナスイオンの安否を確認した罪』で更迭やぞ。どんな罪状や)
脳内でセルフツッコミを入れながら会議室のドアを開けると、そこにはすでに先客がいた。
「あ、神田さん。おつかれ」
窓際のパイプ椅子に腰掛け、資料をめくっていたのは、紛れもない天敵・氷室先輩だった。
ネクタイを少し緩め、ペンを指先で回している。私と目が合うと、彼は待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「氷室先輩……なぜここに」
「いや、俺もさっき急に呼び出されてさ。もしかして、朝の続き? システムダウンさせにきてくれた?」
先輩は声を潜め、私にだけ聞こえるようなトーンで悪戯っぽく囁いた。
(んなわけあるかいな!!!)
(公私混同甚だしいわ! ここは会社やぞ! ほんで部長たちの前で何が『システムダウン』や、サイバーテロの首謀者みたいな言い方すな!)
「……っ、サイバーテロの首謀者みたいな言い方すな!!」
「えっ?」と、ちょうど会議室に入ってきた総務部長と経営企画部長が同時に声をあげ、足を止めた。
まただ。またやってしまった。
私は凍りついたまま、手に持っていたメモ帳でソッと口元を隠した。隣で氷室先輩が「ぶっ……」と吹き出す気配がして、私は彼の足の甲をヒールで踏み抜いてやりたい衝動に駆られた。
「ええと、神田さん? 何の話かな?」
野村部長が怪訝そうに尋ねる。
「いえ……総務部のネットワークセキュリティに関する、単なる独り言です。申し訳ありません、着席いたします」
私は何事もなかったかのように椅子を引き、完璧な姿勢で着席した。心臓はバックバクだが、顔面はチタン合金のままだ。
「よし、全員揃ったな。急に集まってもらったのは他でもない。来期から本格始動する『全社基幹システム刷新プロジェクト』のコアメンバーとして、経営企画部から氷室、総務部から神田、お前たち二人を抜擢することになった」
部長の口から出たのは、私の平穏なOL人生を根本から揺るがす、特大の爆弾発言だった。
「神田さん、ちょっと今すぐ第3会議室へ来てくれる?」
月曜日の昼下がり、総務部長の野村さんが、普段は見せないような神妙な面持ちで私の席にやってきた。手には「社外秘」と朱書きされたクリアファイルが握られている。
「第3会議室ですか? 承知いたしました」
私はPCをロックし、メモ帳とペンを持って席を立った。
隣の席の佐藤さんが、「え、何事? 怒られるの?」と小声で心配そうな視線を送ってきたが、私にも全く心当たりがない。遅刻もミスもしていないし、まさか朝の「マイナスイオン誤爆事件」が部長の耳に入ってコンプライアンス違反に問われたわけではあるまい。
(いや、まさかな……。もしアレが理由やったら、私は『就業時間中に上司の喉にマイナスイオンの安否を確認した罪』で更迭やぞ。どんな罪状や)
脳内でセルフツッコミを入れながら会議室のドアを開けると、そこにはすでに先客がいた。
「あ、神田さん。おつかれ」
窓際のパイプ椅子に腰掛け、資料をめくっていたのは、紛れもない天敵・氷室先輩だった。
ネクタイを少し緩め、ペンを指先で回している。私と目が合うと、彼は待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「氷室先輩……なぜここに」
「いや、俺もさっき急に呼び出されてさ。もしかして、朝の続き? システムダウンさせにきてくれた?」
先輩は声を潜め、私にだけ聞こえるようなトーンで悪戯っぽく囁いた。
(んなわけあるかいな!!!)
(公私混同甚だしいわ! ここは会社やぞ! ほんで部長たちの前で何が『システムダウン』や、サイバーテロの首謀者みたいな言い方すな!)
「……っ、サイバーテロの首謀者みたいな言い方すな!!」
「えっ?」と、ちょうど会議室に入ってきた総務部長と経営企画部長が同時に声をあげ、足を止めた。
まただ。またやってしまった。
私は凍りついたまま、手に持っていたメモ帳でソッと口元を隠した。隣で氷室先輩が「ぶっ……」と吹き出す気配がして、私は彼の足の甲をヒールで踏み抜いてやりたい衝動に駆られた。
「ええと、神田さん? 何の話かな?」
野村部長が怪訝そうに尋ねる。
「いえ……総務部のネットワークセキュリティに関する、単なる独り言です。申し訳ありません、着席いたします」
私は何事もなかったかのように椅子を引き、完璧な姿勢で着席した。心臓はバックバクだが、顔面はチタン合金のままだ。
「よし、全員揃ったな。急に集まってもらったのは他でもない。来期から本格始動する『全社基幹システム刷新プロジェクト』のコアメンバーとして、経営企画部から氷室、総務部から神田、お前たち二人を抜擢することになった」
部長の口から出たのは、私の平穏なOL人生を根本から揺るがす、特大の爆弾発言だった。



