凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる

第六十九話:至宝の寝顔と、小さき覇王たちの包囲網(ゼオン・国王・王妃・カイル視点)
【ゼオン視点】愛しき至宝への誓い、そして小さなライバルたち
大仕事を終えたエルサは、医師から「母子ともに極めて健康、ただの深い眠りです」と告げられた通り、俺の腕の中で、幼子のように安らかな寝息を立てて眠りについていた。
その青白い、けれど最高に愛おしい横顔に、俺は何度も音を立てずに口づけを落とす。
「お疲れ様、エルサ。ゆっくり休め。お前が命をかけて繋いでくれたこの奇跡は、俺が命に代えても守り抜く」
サイドテーブルの上の揺りかごに視線を移すと、そこには、俺と同じ深い紺色の髪をうっすらと生やした、生まれたての双子が並んで小さな拳を握りしめていた。
兄妹揃って、俺の幼少期の肖像画に不気味なほど生き写しーー【ゼオンそっくり】な顔立ちをしている。だが、ふと目を覚ました二人の双眸(そうぼう)が、エルサと同じ、息を呑むほど美しい『琥珀色』に輝いた瞬間、俺の胸は激しい愛おしさで締め付けられた。
(ーーだが、このガキども、生まれた瞬間から俺のエルサを独占しやがって)
兄の方が、俺の指を小さな手でぎゅっと握り、妹の方が、エルサの眠るベッドのシーツを愛おしそうに掴んでいる。
愛する我が子であると同時に、これから一生、エルサの愛を奪い合うことになる世界で最も厄介なライバルたちの誕生だ。俺はあいつらの小さな額を優しく突きながら、至高の独占欲と父親としての独占欲を同時に燃え上がらせていた。
【王妃視点】世界で一番贅沢な「おばあ様」の特権
「ーーああ、なんて可愛らしいの。ゼオンの小さい頃にそっくりだけど、このお目目の輝きは間違いなく、私の愛しいエルサの遺伝子(もの)ね……っ!」
私は、離宮の寝室の片隅で、声を出さないようにハンカチを口に押し当てながら、大洪水の涙を流して身悶えしていました。
エルサの体力を考慮して、部屋に入る人数は厳しく制限されていますが、私とアルベルトだけは「祖父母」の特権として真っ先にこの聖域へと這い入ったのです。
揺りかごの中でフニフニと動く、二つの小さな、愛おしい命。
あのクズのような実の親から道具として磨り潰され、愛を知らなかったエルサが、私たちの注いだ『理由なき善意』をすべて受け止めて、こんなにも美しい奇跡の結晶を二つも、この世界に遺してくれた。
「エレオノーラ、あまり揺りかごに顔を近づけすぎるな。俺の孫が驚くだろう」
「あら、貴方だってさっきから手が震えて、孫の産着の裾をそっと触るのが限界のくせに、よくそんな生意気が言えるわね?」
夫の指摘を鼻で笑いながら、私は決意しました。
エルサがこの国に遺してくれた『すべての母子を救う医療チート』のおかげで、この子たちも、ガルディニアのすべての子供たちも、安全にこの世に生まれることができた。
ならば、おばあ様となった私は、この双子ちゃんたちに、エルサの時以上の【不条理なまでの溺愛】を注ぎ、世界一我が儘で世界一幸福な王子と王女に育て上げてみせますわ!
【国王視点】覇王の完全なる降伏、そして「二世代溺愛」の誓い
「フッ、ははは……。この俺が、まさか赤ん坊二人の寝息の前に、ここまで完膚なきまでに理性を消し飛ばされるとはな」
俺は、眠るエルサを起こさないよう細心の注意を払いながら、低く、低く笑った。
揺りかごの中で眠る双子の兄妹は、確かに俺の息子(ゼオン)の生き写しだが、その柔らかな空気は、間違いなく我が国の至宝であるエルサのものだった。
実の親から愛されず、張り巡らされた数式の檻の中で孤独に震えていた少女が、今、ガルディニアの完全なる庇護の中で、こんなにも安らかに、世界一幸せな母親としての寝顔を晒している。
覇王として、この光景(楽園)を守り抜くこと以上の、極上の達成感など存在しない。
「ゼオン。エルサが起きたら、まずは世界中の最高の滋養強壮品と、あいつの大好きなハチミツを国庫からすべて運ばせろ。公務など、これから一年は一切触れさせるな。すべて俺とカイルで握り潰す」
「言われるまでもない、父上。エルサの目覚めの最初の一秒から、俺の愛だけで視界を埋め尽くしてやる」
息子と視線を交わし、不敵に微笑み合う。
親バカ二世代。ガルディニアの王たちの理性を完全に狂わせた罪深き至宝と、その血を引く小さき覇王たち。この子たちの未来には、もう、永遠に温かい春の光しか降り注がせないと、俺は玉座の誇りにかけて誓った。
【カイル視点】過保護な包囲網、次世代(ネクスト)への完全移行
「……お見事です、エルサ様。あなたが命をかけて繋いでくださった二つの光は、これより我が国の総力を挙げて、完璧に包囲(溺愛)させていただきますね」
寝室の外、回廊の影で私は眼鏡のブリッジを激しく押し上げながら、手元の『双子様用・国家最高級育成・防衛プロジェクト計画書』の進捗をチェックしていました。
すでに、エルサ様のご懐妊中に始動していた全女性救済プロジェクトは大成功を収め、国中は「エルサ様への感謝」と「双子様誕生の歓喜」で完全に狂喜乱舞しています。
私の後ろでは、侍女長マルタや厨房のクロエが「ゼオン殿下そっくりの双子様……!」「お労しかったエルサ様が、本当の神の領域へ……!」と、お互いの肩を抱き合って大洪水の涙を流し、すでに次なる『魔導マタニティ&ベビーケアメニュー』の最終確認に血眼になっていました。
エルサ様。あなたが前世の記憶(データ)を捨て、一人の女性として幸福の檻に囲われる覚悟を決めてくれたからこそ、この二つの奇跡が生まれました。
あなたがゆっくりとお目覚めになるその瞬間から、あなたと、ゼオン殿下と、そして小さき双子様を囲む過保護な甘雨は、さらに激しさを増し、ガルディニアの全土を永遠の祝福で満たし続けるのです。