第三十七話:覇王の盤面、至宝の詰み(エルサ・ゼオン視点)
【エルサ視点】大人の「交渉」の定義
マルドゥーク帝国の全権大使を迎えた、不穏な空気が漂う迎賓館。
ゼオン様の背後に控える私の手元には、昨日三分で書き上げた「帝国の詐欺の証明書」が握られていました。
「我がマルドゥーク帝国は、ガルディニアとの恒久的な平和を望んでおります。この条約案は、両国の未来のための最善の妥協点かと」
口髭を蓄えた帝国の老外交官が、 成り上がりの自信に満ちた笑みを浮かべて語りかけてきます。
前世の悪質なM&A(企業買収)の交渉の場で、何度も見たことのある「獲物を嵌める詐欺師」の顔。私はゼオン様に一度だけ視線を送り、彼の微かな頷きを確認すると、一歩前へ出ました。
「失礼いたします。マルドゥーク帝国の皆様。平和を語るその口で、我が国の魔石資源を年間4.2%、十年間で合計数百万ゴールド相当を不当に搾取する数式を盛り込んだ意図を、まずはご説明いただけますか?」
私の大人の、一切の感情を排した冷徹な声が室内に響いた瞬間、帝国の外交官たちの顔から血の気が引いていくのが分かりました。
「な、何を根拠に……! そんなものは、ただの統計学上の誤差ーー」
「誤差、ですか」
私は手元の羊皮紙をテーブルへ滑らせました。
「こちらの修正数式をご覧ください。貴国が提示した第十七条の『魔石純度の平均値算出法』は、一般的な相加平均ではなく、特殊な加重平均を用いた隠蔽工作です。前世……いえ、私の計算によれば、これは過失ではなく、明確な『意図的欺瞞』。ーー釈明の余地は、ありませんね?」
相手の逃げ道をすべて塞ぐ、完璧な論理のチェックメイト。
これが、前世の二十五年と今世の苦難を生き抜いた、私の「大人の戦い方」でした。
【ゼオン視点】蹂躙の時間
「ーーよくやった、エルサ。下がっていいぞ」
俺はエルサの細い肩を引き寄せ、自分の背へと隠した。
彼女の神がかった頭脳が、帝国の姑息な化けの皮を完璧に剥ぎ取ってくれた。ここから先は、彼女の「大人の交渉」の領域ではない。我がガルディニアのーー覇王の「蹂躙」の時間だ。
「さて……。聞いたか、帝国の羽虫ども」
俺は椅子の背もたれに深く腰掛け、組んだ足の隙間から、ガタガタと震え始めた外交官たちを冷酷に見下ろした。
執務室の空気が、一瞬にして戦場のそれへと変貌する。近衛騎士たちの殺気が室内の温度を氷点下まで引き下げた。
「我が国の『至宝』が直々に貴様らの見窄らしい詐欺を暴いてくださったのだ。……おい、何か言い訳をしてみろ。今、この場で貴様らの首を撥ねて、マルドゥークの皇帝の元へ送り返さないでやる理由を、俺が納得できるように話してみろッ!!」
「ひっ……! ぜ、ゼオン殿下! これは、その、我が国の財務部の手違いでーー」
「手違いで大国ガルディニアを騙そうとしたか!」
ドン、とテーブルを叩く音一つで、帝国の全権大使は椅子から転げ落ちて床に這いつくばった。
「カイル! 今すぐ国境の第一、第三騎士団へ伝令。マルドゥーク帝国が我が国に仕掛けた『経済的侵略行為』に対する報復として、国境沿いの魔石鉱山をすべて我が国が直轄管理(接収)する。異論があれば、皇帝自ら軍を率いて来いと伝えろ」
「御意にございます、殿下」
カイルが冷酷な笑みを浮かべて一礼する。
魔石鉱山の接収。それは帝国にとって、国家の心臓部を丸ごと抉り取られるに等しい破滅的打撃だった。
「あ、ありえない……! たった一枚の書類の不備で、これほどの暴挙が許されるはずがーー」
「暴挙? 違うな、これは正当な対価の請求だ」
俺は立ち上がり、床に這いつくばる大使の頭を踏みつけるかのような至近距離まで歩みを進め、冷たく言い放った。
「貴様らは、俺のエルサに『無駄な労働』を強いた。彼女のあの美しい頭脳を、貴様らのようなゴミ屑の始末のために使わせたのだ。その分の『迷惑料』として、鉱山ごときで済ませてやる俺の慈悲に、涙を流して感謝するんだな」
「ゼ、ゼオン様……、さすがにそれは私の付加価値の計算として高すぎーー」
後ろでエルサが驚いたように「大人の理性」で呟いているが、知ったことか。お前が動いた価値は、国一つ滅ぼしてもお釣りが来る。
「連れて行け。二度とこの汚い面を俺たちの前に見せるな」
騎士たちに引きずられていく帝国の使者たちの絶望の悲鳴を聞きながら、俺は振り返り、呆然と立ち尽くすエルサを再びその腕の中へと手荒に、けれど愛おしさを込めて引き寄せた。
「さあ、エルサ。不快な羽虫の駆除は終わりだ。王宮に戻って、先ほどの『報酬の決済(キス)』の続きをしよう。今度は三分じゃ足りないからな」
「なっ……! ぜ、ゼオン様、公務の最中ですよ……っ!?」
顔を真っ赤にして暴れる我が至宝の体温を感じながら、俺は圧倒的な勝利の余韻に浸っていた。
【エルサ視点】大人の「交渉」の定義
マルドゥーク帝国の全権大使を迎えた、不穏な空気が漂う迎賓館。
ゼオン様の背後に控える私の手元には、昨日三分で書き上げた「帝国の詐欺の証明書」が握られていました。
「我がマルドゥーク帝国は、ガルディニアとの恒久的な平和を望んでおります。この条約案は、両国の未来のための最善の妥協点かと」
口髭を蓄えた帝国の老外交官が、 成り上がりの自信に満ちた笑みを浮かべて語りかけてきます。
前世の悪質なM&A(企業買収)の交渉の場で、何度も見たことのある「獲物を嵌める詐欺師」の顔。私はゼオン様に一度だけ視線を送り、彼の微かな頷きを確認すると、一歩前へ出ました。
「失礼いたします。マルドゥーク帝国の皆様。平和を語るその口で、我が国の魔石資源を年間4.2%、十年間で合計数百万ゴールド相当を不当に搾取する数式を盛り込んだ意図を、まずはご説明いただけますか?」
私の大人の、一切の感情を排した冷徹な声が室内に響いた瞬間、帝国の外交官たちの顔から血の気が引いていくのが分かりました。
「な、何を根拠に……! そんなものは、ただの統計学上の誤差ーー」
「誤差、ですか」
私は手元の羊皮紙をテーブルへ滑らせました。
「こちらの修正数式をご覧ください。貴国が提示した第十七条の『魔石純度の平均値算出法』は、一般的な相加平均ではなく、特殊な加重平均を用いた隠蔽工作です。前世……いえ、私の計算によれば、これは過失ではなく、明確な『意図的欺瞞』。ーー釈明の余地は、ありませんね?」
相手の逃げ道をすべて塞ぐ、完璧な論理のチェックメイト。
これが、前世の二十五年と今世の苦難を生き抜いた、私の「大人の戦い方」でした。
【ゼオン視点】蹂躙の時間
「ーーよくやった、エルサ。下がっていいぞ」
俺はエルサの細い肩を引き寄せ、自分の背へと隠した。
彼女の神がかった頭脳が、帝国の姑息な化けの皮を完璧に剥ぎ取ってくれた。ここから先は、彼女の「大人の交渉」の領域ではない。我がガルディニアのーー覇王の「蹂躙」の時間だ。
「さて……。聞いたか、帝国の羽虫ども」
俺は椅子の背もたれに深く腰掛け、組んだ足の隙間から、ガタガタと震え始めた外交官たちを冷酷に見下ろした。
執務室の空気が、一瞬にして戦場のそれへと変貌する。近衛騎士たちの殺気が室内の温度を氷点下まで引き下げた。
「我が国の『至宝』が直々に貴様らの見窄らしい詐欺を暴いてくださったのだ。……おい、何か言い訳をしてみろ。今、この場で貴様らの首を撥ねて、マルドゥークの皇帝の元へ送り返さないでやる理由を、俺が納得できるように話してみろッ!!」
「ひっ……! ぜ、ゼオン殿下! これは、その、我が国の財務部の手違いでーー」
「手違いで大国ガルディニアを騙そうとしたか!」
ドン、とテーブルを叩く音一つで、帝国の全権大使は椅子から転げ落ちて床に這いつくばった。
「カイル! 今すぐ国境の第一、第三騎士団へ伝令。マルドゥーク帝国が我が国に仕掛けた『経済的侵略行為』に対する報復として、国境沿いの魔石鉱山をすべて我が国が直轄管理(接収)する。異論があれば、皇帝自ら軍を率いて来いと伝えろ」
「御意にございます、殿下」
カイルが冷酷な笑みを浮かべて一礼する。
魔石鉱山の接収。それは帝国にとって、国家の心臓部を丸ごと抉り取られるに等しい破滅的打撃だった。
「あ、ありえない……! たった一枚の書類の不備で、これほどの暴挙が許されるはずがーー」
「暴挙? 違うな、これは正当な対価の請求だ」
俺は立ち上がり、床に這いつくばる大使の頭を踏みつけるかのような至近距離まで歩みを進め、冷たく言い放った。
「貴様らは、俺のエルサに『無駄な労働』を強いた。彼女のあの美しい頭脳を、貴様らのようなゴミ屑の始末のために使わせたのだ。その分の『迷惑料』として、鉱山ごときで済ませてやる俺の慈悲に、涙を流して感謝するんだな」
「ゼ、ゼオン様……、さすがにそれは私の付加価値の計算として高すぎーー」
後ろでエルサが驚いたように「大人の理性」で呟いているが、知ったことか。お前が動いた価値は、国一つ滅ぼしてもお釣りが来る。
「連れて行け。二度とこの汚い面を俺たちの前に見せるな」
騎士たちに引きずられていく帝国の使者たちの絶望の悲鳴を聞きながら、俺は振り返り、呆然と立ち尽くすエルサを再びその腕の中へと手荒に、けれど愛おしさを込めて引き寄せた。
「さあ、エルサ。不快な羽虫の駆除は終わりだ。王宮に戻って、先ほどの『報酬の決済(キス)』の続きをしよう。今度は三分じゃ足りないからな」
「なっ……! ぜ、ゼオン様、公務の最中ですよ……っ!?」
顔を真っ赤にして暴れる我が至宝の体温を感じながら、俺は圧倒的な勝利の余韻に浸っていた。



