凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる

第三十六話:覇王の仕返し、あるいは最高の褒美(エルサ・ゼオン視点)
【エルサ視点】「大人」の想定を凌駕する熱量
カイル様が引き揚げた後の執務室は、先ほどまでの張り詰めた空気から一転して、砂糖菓子のように甘く、そして逃げ場のない熱気に満たされていました。
「……あの、ゼオン様。もう数字の処理は終わりましたので、その、抱きしめる力を少し緩めていただけないでしょうか」
私は彼の広い胸の中に完全に閉じ込められたまま、何とか「大人の理性」を総動員して冷静な声を絞り出しました。
前世の二十五年、そして今世のこれまで、私が何か成果を上げた後に待っていたのは、より重いタスクの押し付けか、「生意気だ」という理不尽な叱責だけでした。だから、こうして成果を出した直後に、ただ純粋な、狂おしいほどの賛辞と体温だけで包み込まれる状況に、私の頭脳は処理落ち寸前なのです。
「嫌だと言ったら?」
ゼオン様は私の首筋に顔を埋め、わざと低く、掠れた声で囁きました。彼の吐息が肌に触れるたび、私の心臓が不条理なほど跳ね上がります。
「お前はガルディニアを、そして俺の面目を完璧に守ってくれた。これほどの特大の功績だ、相応の『褒美』を受け取る義務があるだろう、エルサ」
「ほう、び……ですか? 私はただ、趣味の範疇で数字の歪みを指摘しただけで……。もし頂けるのでしたら、もう少し難しい統計学の専門書などをーー」
「そんなもので俺の気が済むと思うか?」
ゼオン様が顔を上げ、その端正な顔に、いたずらっぽくも獰猛な笑みを浮かべました。
(あ、これは……私の計算が通用しない時の顔です)
私の大人の直感がそう察知した瞬間には、すでに遅かったのです。
【ゼオン視点】お前を甘やかす、絶対的な権利
「専門書などいくらでも買ってやるが、それは『褒美』ではなくただの日常品だ」
俺は腕の中で、なんとか大人の理屈をこねて逃げ出そうとしているエルサを見つめ、心の底から愛おしさが爆発しそうになっていた。
これほどの圧倒的な知性を見せつけておきながら、自分の価値をまだ「趣味の範疇」などと過小評価している。本当に、前世からの呪縛というのは根深い。
だが、根深いなら、俺の愛でその根ごと、何度でも我が国(ガルディニア)の温土に植え替えてやるだけだ。
「俺が与える最高の褒美は、これだ」
俺はエルサの顎を細い指先でそっとすくい上げ、驚きに丸くなったその琥珀色の瞳を見つめながら、躊躇うことなく唇を重ねた。
「ん……っ!?」
かすかな、可愛い悲鳴が俺の口内に吸い込まれていく。
一度目の夜に誓った通り、彼女が俺を男として受け入れるまで、傷つけるような真似(強引な行為)はしない。だが、これは傷つける行為ではない。我が国の至宝に対する、最高級の「愛の支払い」だ。
深く、熱く、彼女の唇の柔らかさと、ハチミツレモンケーキのような甘さを確かめるように不条理なほど貪る。
エルサの身体が驚きで一瞬硬直したが、すぐに、俺の熱に絆されるように、トロンと力を失って俺の衣を掴んできた。
唇を離すと、エルサは見たこともないほど顔を真っ赤に染め、大人の仮面など跡形もなく吹き飛んだ表情で、うるんだ瞳で俺を睨んできた。
「な……ッ、何を、なさるのですか……っ! 業務の、報酬として、これは不適切です……!」
「いいや、最高に適切な決済だ。エルサ、お前がその神がかった頭脳を俺のために使うたび、俺は何度でもこの褒美を支払ってやる。嫌なら、俺の傍で一生何もしない『無職の姫』に戻るんだな」
「うぐ……っ、そんな極端な二者択一……!」
頭を抱えて、大人の計算式が完全に狂わされた顔をするエルサ。
どれほど鋭い知性を持っていようと、俺の腕の中では、お前はただの、愛されるべき一人の女だ。その事実を、俺はこれから毎日、何度でもお前に叩き込んでやる。