凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる

第十四話:融解の熱、拒絶の肉体(ゼオン・マルタ視点)
【侍女(マルタ)視点】限界の境界線
「ーーエルサ様!? エルサ様、しっかりなさってください!」
深夜の私室に、ニーナの悲痛な叫び声が響き渡りました。
私たちが慌てて駆け寄ると、さきほどまで子供のように声を上げて泣き崩れていたエルサ様が、糸の切れた人形のように、ベッドの上で意識を失い倒れ込んでいらっしゃったのです。
ミルクティー色の美しい髪は寝汗で額に張り付き、そのお肌は、恐ろしいほどの熱を帯びて真っ赤に燃え上がっていました。
「マルタ、どうしましょう……! お身体が、まるでお湯のように熱くて……っ」
「落ち着きなさい、ニーナ! クロエは今すぐ宮廷医を! 私は殿下のお耳に入れます!」
前世の二十五年、そして今世の十数年。合わせて40年近くもの間、エルサ様は「誰も信じない、頼らない」という冷徹な檻の中に、自らの魂を閉じ込めてこられました。その強固な氷が、殿下の命がけの情熱と、私たちの無条件の温かさによって一気にこじ開けられたのです。
初めて流した本物の涙と共に、張り詰め続けていた彼女の「大人の理性」のキャパシティは、完全に決壊してしまったのでしょう。
あまりにも急激な心の変化に、そのお身体が耐えきれず、悲鳴を上げているのは明白でした。
【ゼオン視点】肉体の拒絶、魂の飢え
「エルサ……っ!」
報告を受け、深夜の廊下を文字通り狂ったように駆け抜けて部屋へ飛び込むと、そこには高熱にうなされ、激しく呼吸を乱すエルサの姿があった。
「殿下、お下がりください。今、解熱の薬湯をーー」
「どけ!」
宮廷医を突き飛ばすようにして、俺はベッドの傍らに膝をつき、エルサの細い手を両手で包み込んだ。
熱い。信じられないほどに熱い。だが、それ以上に俺の胸を締め付けたのは、彼女の口から漏れる、途切れ途切れの、ひどく哀しい「譫言(うわごと)」だった。
「……ごめんなさい……もう、何も、生み出せない……の……。だから、置いていかないで……冷たい、雨は、いや……」
前世の、25歳で死んだというあの冷たい路地裏の記憶。
そして今世で、役に立たなくなった瞬間に悪女と罵られ、捨てられた記憶。
エルサの肉体は、俺たちの愛を受け入れた瞬間、あまりの温かさに「そんな幸福が許されるはずがない」と、猛烈な拒絶反応を起こしているのだ。魂の飢えが長すぎたせいで、愛という劇薬に、彼女の心臓がついていけていない。
「エルサ、俺を見ろ。俺だ、ゼオンだ!」
俺は彼女の額に己の額を押し当て、熱を分け合うように、必死にその名を呼び続けた。
「謝るな! お前は何も生み出さなくていい、何の対価もいらない! 頼むから、俺の熱を拒むな……お前を置いていく雨など、俺がこの世界からすべて消し去ってやる。だから、戻ってこい、エルサ……っ」
大国の王太子である俺が、今、ただ一人の、傷だらけの異邦人の前で、ボロボロと情けない涙を流している。
エルサの手を握る我が指先に、すべての魔力を込めるように力を込める。お前を縛る25年の呪いなど、俺がこの手で、何度でも握り潰してやる。