【レオン視点】
御者台から見える夜道は暗いが、獣人である俺の目には昼間のように明瞭に見えていた。
隣で、子供のように目を輝かせて星空を見上げるエリーゼを視界の端に捉える。
(本当に、不思議な令嬢だ)
一年前、薄汚い路地裏で首輪に繋がれていた俺に、彼女は躊躇いもなく手を差し伸べた。
貴族の令嬢らしからぬ、泥に汚れることを厭わない小さな手。俺を「獣」として見て怯えることもなく、一人の「人間」として、いや、「仲間」として真っ直ぐに見つめてきたあの瞳を、俺は一生忘れないだろう。
『走れないなら、私があなたの脚になる』
あの言葉が、どれだけ俺の凍りついた心を溶かしたか、彼女は知らない。
帝国騎士団を追われ、すべてを失った俺に、彼女はもう一度「生きる意味」をくれた。彼女が毎日、必死になって俺の脚に魔法をかけ、マッサージをしてくれた日々。その小さな手の温もりが、俺の麻痺した神経を呼び覚ましたのだ。
今夜、王宮から駆け出してきた彼女は、婚約破棄されたとは思えないほど輝かしい笑顔を浮かべていた。
あの馬鹿な第一王子は、この至宝を手放したことを一生悔やめばいい。
「レオン、あそこの森を抜けたら、隣国との国境ね」
エリーゼが地図を広げながら、楽しそうに言う。
「ああ。国境の街で一晩休み、明朝には完全にこの国を出る。……怖くはないか? 慣れ親しんだ土地を捨てるのだぞ」
俺が問いかけると、エリーゼはクスッと笑って、俺の腕にそっと自分の手を重ねた。
「全然。だって、私の隣には世界一強い騎士様がいるもの」
その無邪気な信頼が、俺の胸の奥を激しく揺さぶる。
ただの主従ではない。俺は彼女を、この手で守り抜きたい。いや、それ以上の感情が、胸の内で静かに、しかし確実に牙を剥きつつあるのを自覚していた。
「……ああ。どこへでも連れて行く。俺の命に代えても、お前を幸せにしよう」
俺は手綱を握り直し、馬車をさらに加速させた。
二人の旅路は始まったばかりだ。邪魔する者が現れるなら、この鋭い爪で引き裂くまで。
御者台から見える夜道は暗いが、獣人である俺の目には昼間のように明瞭に見えていた。
隣で、子供のように目を輝かせて星空を見上げるエリーゼを視界の端に捉える。
(本当に、不思議な令嬢だ)
一年前、薄汚い路地裏で首輪に繋がれていた俺に、彼女は躊躇いもなく手を差し伸べた。
貴族の令嬢らしからぬ、泥に汚れることを厭わない小さな手。俺を「獣」として見て怯えることもなく、一人の「人間」として、いや、「仲間」として真っ直ぐに見つめてきたあの瞳を、俺は一生忘れないだろう。
『走れないなら、私があなたの脚になる』
あの言葉が、どれだけ俺の凍りついた心を溶かしたか、彼女は知らない。
帝国騎士団を追われ、すべてを失った俺に、彼女はもう一度「生きる意味」をくれた。彼女が毎日、必死になって俺の脚に魔法をかけ、マッサージをしてくれた日々。その小さな手の温もりが、俺の麻痺した神経を呼び覚ましたのだ。
今夜、王宮から駆け出してきた彼女は、婚約破棄されたとは思えないほど輝かしい笑顔を浮かべていた。
あの馬鹿な第一王子は、この至宝を手放したことを一生悔やめばいい。
「レオン、あそこの森を抜けたら、隣国との国境ね」
エリーゼが地図を広げながら、楽しそうに言う。
「ああ。国境の街で一晩休み、明朝には完全にこの国を出る。……怖くはないか? 慣れ親しんだ土地を捨てるのだぞ」
俺が問いかけると、エリーゼはクスッと笑って、俺の腕にそっと自分の手を重ねた。
「全然。だって、私の隣には世界一強い騎士様がいるもの」
その無邪気な信頼が、俺の胸の奥を激しく揺さぶる。
ただの主従ではない。俺は彼女を、この手で守り抜きたい。いや、それ以上の感情が、胸の内で静かに、しかし確実に牙を剥きつつあるのを自覚していた。
「……ああ。どこへでも連れて行く。俺の命に代えても、お前を幸せにしよう」
俺は手綱を握り直し、馬車をさらに加速させた。
二人の旅路は始まったばかりだ。邪魔する者が現れるなら、この鋭い爪で引き裂くまで。


