【エリーゼ視点】
王都の喧騒が遠ざかり、馬車の車輪が立てる規則的な音だけが夜の静寂に響いていた。
豪奢なドレスの裾を大胆に破り捨て、私は御者台で手綱を握るレオンの隣に腰掛けていた。
「エリーゼ、中に入っていなくていいのか? 夜風で冷えるぞ」
レオンが銀色の耳をこちらに傾け、低く心地よい声で私を気遣う。
「ううん、ここにいたいの。だって、見て」
私は夜空を指差した。
遮るもののない満天の星々が、私たちの行く手を祝福するように瞬いている。前世のあの狭い病室の窓からは、決して見ることのできなかった本物の星空だ。
「私、今、本当に生きているんだわ……」
自分の胸に手を当てると、トクトクと力強い鼓動が響いている。
婚約破棄された悪役令嬢。家族に捨てられた哀れな娘。世間は私をそう呼ぶかもしれない。けれど、今の私はこれまでにないほど自由で、そして――。
ちらりと、隣で馬車を操るレオンの横顔を盗み見る。
整った、けれどどこか野性味を残す峻厳な横顔。月光に照らされた銀色の髪が風に揺れている。私を見つめるその琥珀色の瞳には、もうかつて奴隷市場で見せたような、世界への呪詛は欠片もなかった。
「レオン。私を買い取ってくれたこと、後悔していない?」
「……お前が俺を買い取った立場だろう」
レオンは困ったように眉を下げ、それからふっと柔らかく微笑んだ。その笑顔に、私の心臓がまた一つ、原作のシナリオにはない不規則なリズムを刻む。
「後悔など、あるはずがない。俺の命も、この脚も、すべてお前に捧げると誓ったのだから」
王都の喧騒が遠ざかり、馬車の車輪が立てる規則的な音だけが夜の静寂に響いていた。
豪奢なドレスの裾を大胆に破り捨て、私は御者台で手綱を握るレオンの隣に腰掛けていた。
「エリーゼ、中に入っていなくていいのか? 夜風で冷えるぞ」
レオンが銀色の耳をこちらに傾け、低く心地よい声で私を気遣う。
「ううん、ここにいたいの。だって、見て」
私は夜空を指差した。
遮るもののない満天の星々が、私たちの行く手を祝福するように瞬いている。前世のあの狭い病室の窓からは、決して見ることのできなかった本物の星空だ。
「私、今、本当に生きているんだわ……」
自分の胸に手を当てると、トクトクと力強い鼓動が響いている。
婚約破棄された悪役令嬢。家族に捨てられた哀れな娘。世間は私をそう呼ぶかもしれない。けれど、今の私はこれまでにないほど自由で、そして――。
ちらりと、隣で馬車を操るレオンの横顔を盗み見る。
整った、けれどどこか野性味を残す峻厳な横顔。月光に照らされた銀色の髪が風に揺れている。私を見つめるその琥珀色の瞳には、もうかつて奴隷市場で見せたような、世界への呪詛は欠片もなかった。
「レオン。私を買い取ってくれたこと、後悔していない?」
「……お前が俺を買い取った立場だろう」
レオンは困ったように眉を下げ、それからふっと柔らかく微笑んだ。その笑顔に、私の心臓がまた一つ、原作のシナリオにはない不規則なリズムを刻む。
「後悔など、あるはずがない。俺の命も、この脚も、すべてお前に捧げると誓ったのだから」


