銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

【エリーゼ視点】
自由都市『リベルタ』を立ち、天空都市『ハルシオン』を目指して数日。馬車が進むにつれて緑は薄くなり、目の前には赤茶けた岩肌が露出する荒涼とした荒野が広がっていた。
「はい、そこまで! 意識が手元に集中しすぎているぞ、エリーゼ。周りの空気の揺らぎを感じろ」
岩陰の即席のキャンプ地で、レオンの鋭い声が響く。
私は地面に両足をしっかりとつけ、大きく息を吐き出しながら、手のひらに魔力を集めていた。
「くっ……、こう、かしら……!?」
前世の私なら、こんな風に炎天下の荒野に数分立つだけで目眩を起こして倒れていただろう。けれど、今の私の身体は健康そのものだ。レオンに教わった通り、体内の魔力の奔流を意識し、それを身体の表面に薄く、均一に広げていく。
キィィィン、と微かな金属音と共に、私の周囲に半透明の黄金色の球体――『聖属性の魔力障壁』が展開された。
「……できたわ!」
「よし、維持しろ。行くぞ」
言うが早いか、レオンが手元に落ちていた小さな石を、私の障壁めがけて鋭く弾いた。
パキィン! と乾いた音がして、石は障壁に阻まれて粉々に砕け散る。
「すごい……! 本当に防げた!」
私が嬉しさのあまり障壁を解き、レオンの方へ駆け寄ろうとしたその時、足元の浮き石に躓いて身体が大きく前に傾いた。
「きゃっ――」
「おっと。危ないと言ったそばからこれか」
地面に激突する寸前、視界がぐるりと回り、気がつけば私はレオンの逞しい両腕の中にすっぽりと収まっていた。彼の硬い胸板に私の顔が押し付けられ、衣服越しに彼の高い体温と、どこか野性味のある心地よい香りが鼻腔を満たす。
「あ……ご、ごめんなさい」
「怪我はないか? 障壁の維持に気を取られて、足元がお留守になっていたぞ」
レオンは呆れたように言いながらも、その琥珀色の瞳には深い優しさと、それから――私を簡単には離したくないというような、微かな熱が揺らめいていた。彼の大きな手が私の腰をしっかりと支えていて、その指先の強さに、私の心臓がまたしてもバクバクと暴れ出してしまう。
ゆっくりでいい、そう思っているのに、彼に触れられるたびに私の心はどんどんスピードを上げていくみたいだ。