銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

二日酔いの薬が効いて頭痛が引いた頃、私はレオンと宿の小さな丸テーブルを囲み、リベルタの道具屋で買った一枚の「世界地図」を広げていた。
この世界の地図を見るのは、ヴァルハイト公爵家の書斎以来だ。あの時は、決められた領地や王国の境界線ばかりが目について息が詰まりそうだったけれど、今の私の目に映る地図は、まるでこれから好きな色で染めていく真っ白なキャンバスのように見えた。
「――さて、次はどこに行こうか」
私が地図を指先でなぞりながら呟くと、隣に座るレオンが銀色の耳をこちらへ傾けた。
「お前の行きたい場所が、俺の行く先だ。……前世の『あの部屋』で、お前が一番行きたいと願っていた場所はどこだ?」
レオンの琥珀色の瞳が、私の言葉を一つも聞き漏らすまいと真っ直ぐに注がれる。彼が私の「前世の未練」を、こうして当たり前のように、大切な目的として扱ってくれることが、たまらなく嬉しかった。
「そうね……。病院の窓から、よく空を眺めていたの。あの雲の向こうには何があるんだろうって。だから、まずは『世界で一番、空に近い場所』に行ってみたいわ」
私は地図の遥か東、険しい山脈の先にある国を指差した。
「竜の背骨と呼ばれる大山脈の麓にある、天空都市『ハルシオン』。一年中、手が届きそうなほど近くに雲が流れていて、夜には星が降るように輝く街なんですって。原作の小説でも、ほんの少しだけ名前が出てきて、ずっと憧れていたの」
「天空都市か。いいな」
レオンは私の指先に視線を落とし、ふっと口元を緩めた。
「だが、あそこへ至る道のりは険しい。魔獣が出る山道を超える必要がある。……怖くはないか?」
「レオンがいてくれるもの、全然怖くないわ」
私は冗談めかして微笑み、彼の顔を見た。すると、レオンは一瞬だけ息を呑んだように耳をピクンと震わせ、それからバツが悪そうに視線を地図へと戻した。
「……お前は本当に、そういうことを平気で言う」
低く、少し掠れた声。
そんな彼の反応を見るたびに、私の胸の奥にも小さな熱が灯る。