銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

【レオン視点】
夜風に揺れるランタンの光が、エリーゼの小さな手を赤々と照らしていた。
指と指を絡ませる、少し特別な繋ぎ方。彼女の小さな手のひらは、酒の熱のせいか、いつもより少しだけ熱を帯びていて、その温もりが俺の腕を伝い、心臓を直撃していた。
「レオン、明日も、明後日も……ずっと一緒にいてね」
夢見心地のような、蕩けた声だった。
「ああ。お前が望む限り、世界の果てまで」
そう答えた俺の声が、少し掠れていたことに彼女は気づいただろうか。
平民街の奥にある薄暗い宿に辿り着き、部屋の鍵を開ける。エリーゼの部屋に入り、彼女をベッドへ誘おうとした瞬間――繋いでいた手の力が、ふっと抜けた。
「……エリーゼ?」
覗き込めば、彼女はすでに限界を迎えていたようで、糸が切れたようにその場に倒れ込んできた。
俺は咄嗟にその細い身体を両腕で抱きとめる。
「おっと……本当に限界だったんだな」
軽い。驚くほどに、この少女の身体は軽い。
前世で20年という短い時間を病室のベッドで過ごし、今世でも実家から見向きもされずに育ったという、彼女の背負ってきた「脆さ」が、その重みにそのまま現れているような気がした。
俺は壊れ物を扱うように細心の注意を払いながら、彼女をベッドの真ん中へと横たえた。
泥だらけの草原を走り回り、自分の力で初めての銀貨を稼ぎ、そして兄の脅迫を真っ向から跳ね除けた、勇敢な俺の小さなお嬢様。
「よく頑張ったな、エリーゼ」
靴を脱がせ、窮屈そうな上着のボタンを少しだけ緩めてやる。
毛布を胸元まで掛け直してやると、エリーゼは「う、ん……」と小さく甘えたような声を漏らし、俺の上着の裾を無意識にギュッと掴んだ。
その拍子に、彼女の首元から、隠されていた白い肌が月光の下で露わになる。
ドクン、と胸の奥の獣が、凶暴なまでの独占欲を伴って跳ね上がった。
(――いけない)
俺は奥歯を噛み締め、静かに彼女の手を上着から引き剥がした。
彼女の枕元に片膝を突き、その愛おしい寝顔をじっと見つめる。
「……焦るな、俺」
俺は自分の銀色の耳をへにゃりと寝かせ、漏れ出そうになる熱いため息を飲み込んだ。
だが、どうしても抑えきれなかった衝動のままに、彼女の額に、そっと触れるだけの、静かな、静かな誓いのキスを落とした。
「おやすみ、エリーゼ。明日も、俺がお前の脚になろう」
眠る彼女を脅かすものは、もう何も無い。
俺は立ち上がり、扉のすぐ近くにある椅子に深く腰掛け、大剣を抱くようにして目を閉じた。
ゆっくりでいい。彼女が紡ぐ新しい物語のすべてを、俺はこの命を賭して守り続けると、静まり返った夜の闇に改めて誓った。